研究課題/領域番号 |
16J05315
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
佐野 友彦 立命館大学, 総合科学技術研究機構, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 弾性体 / 摩擦 / バイオメカニクス / 構造力学 |
研究実績の概要 |
自然界の複雑な構造や運動は細い物体同士が相互作用する事によって生み出される。例えばDNAを射出するバクテリオファージや植物の蔓が膜様子等がある。日常生活の例としては髪をブラシするとき、靴ひもを結ぶとき、また紐を床に垂らしとぐろを巻くコイリング現象などに見られ、工業的にはポリマーブラシが例として挙げられる。細い物体同士が相互作用し複雑な構造を保つには接触(静止)摩擦が重要であり、細い物体の弾性と摩擦が競合する現象は近年のソフトマター物理などにおける中心的な研究トピックの1つと言える。
上に挙げた「細い物体同士が相互作用し静止する現象」の素過程は、弾性棒または弾性ストライプが基板に対して鉛直に押し付けられ座屈する現象であろう。ストライプを押し付けると、まず対称性を破り座屈し、更に押し込む事で曲率を解消する方向に下端が滑る。この現象は単純で誰しも馴染みがあると思われるが、いつどのように滑るのか、滑り長が何で決まるかなどは明らかではない、これらの基本的な問いに答える為には、ストライプの弾性、幾何学、摩擦や重力と行ったものの複雑な競合を1つ1つ紐解く必要がある。私はまず重力に対して曲げ弾性力が支配的な(硬い)場合に、弾性ストライプを離散化した数値計算、キルヒホッフ方程式の厳密解、更に実験を組み合わせて、アモントン・クーロン則を満たす剛体基板上でのストライプの滑り形態を明らかにした。更にその形態が、重力が曲げに対して支配的になるにつれて如何に(軟らかい)紐のコイリング形態に漸近するか議論する事で、細い弾性体の剛体基板上での座屈形態を統一的に理解できる事を明らかにした。この研究結果はPhysical Review Letter誌に出版された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
組織形成を議論するには、弾性体のなかでも「薄く細い弾性体」の形状や安定性を議論することが必要である。当初の予定では非平衡揺らぎの下での細い物体の変形ダイナミクスを実験と比較する予定であったが、接触摩擦の変形力学を理論と実験を組み合わせることによって明らかにする事ができた。当該年度行った研究は、フィラメントの様な薄く細い弾性体が膜や基板とお互いに力を及ぼし合う際の基本的な性質を解明したことになる。この研究内容は生体組織の形状を理解する足場になるとともに、生体組織にインスパイアされた新しい工業デザインの基礎にもなる事が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度は面と棒がお互いに力を及ぼし合った場合の棒の最終的な形状について多くの性質を明らかにすることができた。翌年度は安定性やダイナミクスの2つの方向で棒の形状を議論したいと考えている。安定性やダイナミクスは実際の生体組織の変形の様子を議論する上で不可欠と言える。まず安定性に関しては、基板に対して上端をはめこみ境界条件にした棒を押し付けた後に、上端の水平位置を変化させる安定性を理論とシミュレーションを組み合わせて議論する。ダイナミクスに関しては、生体組織は純粋な弾性体ではなく弾性変形と結合した何らかの粘性を伴うと考えられるので、棒を弾性体から粘弾性体に変える。基板と粘弾性シートが力を及ぼし合う際の形の時間変化を数値計算で議論する予定である。数値計算で確認できた現象をマクロ実験で検証する事を念頭に置いて、数値計算では慣性の効果を取りいれる。
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