研究課題/領域番号 |
16J05323
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
田村 悠人 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 有機薄膜太陽電池 / ベンゾポルフィリン / 熱前駆体 / 連結分子 |
研究実績の概要 |
今年度は、非対称なCP合成法を確立し、それらを足掛かりとしたフラーレン連結ベンゾポルフィリンの合成と有機薄膜太陽電池への応用に着手した。 非対称なCP合成としては、メゾ位の一か所へ置換基を導入することを目的とした、[2+2]合成法および[2+1+1]合成法を検討した。[2+2]合成法においては、目的の置換基を持つアルデヒド化合物とパラホルムアルデヒドを炭素源とした場合において、メゾ位一か所に置換基が導入された5-置換CPが比較的良好な収率で得られることが明らかとなった。共役系置換基の導入には[2+1+1]合成法が適しており、目的とする5-置換体を非常に良好な収率で得ることに成功した。この結果より、5-置換CPの合成において、導入したい置換基によって適切な合成手法を選択することで、効率よく目的のCPを得られることが明らかとなった。 メゾ位を一か所置換したCPを足掛かりとして、フレキシブルなアルキル鎖を導入したf-BP-C60および剛直なフェニルとアセチレンを導入したf-BP-C60を合成した。p層 (BP)、i層 (f-BP-C60あるいはr-BP-C60) およびn層 (PC61BM)の3層構造を有するp-i-n型OPVを作製し、電流密度-電位測定測定によって太陽電池を調査したところ、f-BP-C60をi層としたOPVでは最大2%の変換効率 (PCE)が得られ、i層を設けていないp-n型OPVのPCEを上回る性能が得られた。一方、r-BP-C60をi層としたOPVでは電流密度 (JSC) やフィルファクター (FF)の低下から0.6%程度のPCEにとどまった。以上の結果より、連結分子においてリンカー骨格が太陽電池性能に大きく寄与する可能性が示唆された。 本報告内容の一部はJournal of Materials Chemistry Aに受理され、論文誌における内表紙を獲得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
非対称なCP合成において、対象系の合成に匹敵するほど高率的な合成法の開拓に成功している。また合成した非対称CPを足掛かりとして、リンカー骨格の異なる2種類ベンゾポルフィリン-フラーレン連結化合物を設計および合成し、光学特性や薄膜特性などの比較からベンゾポルフィリン-フラーレン系の物性を世界で初めて明らかにした。また、有機薄膜太陽電池のバルクヘテロ層における連結化合物の効果を、薄膜構造と光電変換効率から詳細に検討できた。その結果は、J. Mater. Chem. A, 2016, 4,15333に採択され、インサイドカバーに選ばれた。 また上記の結果をもとに、現在は連結化合物を混合系BHJ層における相溶剤として用いる研究テーマの確立にも成功しており、すでに論文化を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
現状では、作製した有機薄膜太陽電池の変換効率が2%程度と高くない値であるが、連結分子を用いたOPV材料としては、比較的良好な性能が得られており、溶液塗布プロセスによる積層という従来の連結分子では成し遂げられなかった機能を付与することに成功している。よって、リンカー骨格の変更、例えば、グリコール系リンカーを導入してBPとC60部分をより分離させ、規則的な膜構造を形成させることや、その長さの最適化によって、さらなる高性能化も期待できる。今後も連結分子のバリエーションを増やし、薄膜構造の変化と変換効率の相関を詳細に検討していく。また、合成した連結分子を混合系BHJ層の相溶剤として応用する新たな研究テーマの確立ができているため、これらの検討を続けていくことで、高性能な連結分子の設計指針や、薄膜のモロフォロジー改質に有益な材料開発を目指していく。
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