研究課題/領域番号 |
16J05332
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
清水 勇介 広島大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | フレーバー物理 / ニュートリノ物理 / 非可換離散対称性 |
研究実績の概要 |
素粒子標準模型では素粒子の質量階層性と世代混合について説明することができない。特に、ニュートリノ振動の精密実験により、ニュートリノには質量があり、大きな二つの世代混合、第一世代と第三世代の間の世代混合角の大きさが、クォークの第一世代と第二世代の世代混合角程度大きいことが判明した。クォーク・レプトンの大きさと世代混合の大きさを統一的に説明することは、素粒子の世代の起源の解明における重要な課題である。この問題を解決する手段の一つとして、世代に対して非可換離散対称性を用いることにより、レプトンの大きな世代混合を説明することができる。また、標準模型を超対称大統一理論に拡張することにより、クォーク・レプトンを統一的に扱う。 平成29年度では、平成28年度で調査・解析した非可換離散対称性を用いた模型に基づき、ニュートリノ振動実験の最新データと照らし合わせて素粒子の世代構造を解析した。平成29年度から現在まで、5編の論文が国際雑誌に掲載された。これらの論文での中心的な研究は、非可換離散対称性であるA4対称性を用いたレプトン模型の真空構造の解析である。また、非可換離散対称性の検証可能性として、次世代の加速器による電子-光子コライダーによる解析を行った。さらに、最近のT2K実験により、レプトンセクターのCPの破れの大きさが報告されたので、A4やS4対称性を用いた模型を構築し、CPの破れの大きさやニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊の有効質量を予言した。このS4模型ではCPの破れの符号を決めることができなかったため、現在知られている宇宙バリオン数非対称性の観測結果を用いることにより、CPの破れの符号を決定することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では、昨年度で調査・解析した非可換離散対称性を用いた模型に基づき、ニュートリノ振動実験の最新データと照らし合わせて素粒子の世代構造を解析した。特に、昨年度に報告したA4模型の真空構造の解析を終え、雑誌に出版・掲載された。本研究では、非可換離散対称性A4に関係するスカラー粒子(flavon)の真空構造を計算・解析した結果、24パターンの真空が得られる事が分かった。これらの真空解は2種類のグループに分けられ、この2グループでの現象論的振る舞いを数値計算し、解析した。また、このflavonに関しては光子コライダーにより実験的に検証可能であることが分かった。さらに、レプトンの世代構造に関してtexture zeroという、質量行列にゼロを持たせる手法により、左巻きニュートリノの質量行列の分類・解析を現在は行っている。最近、T2K実験により、レプトンセクターのCPの破れの大きさが報告されており、A4模型でのCPの破れの大きさは先行研究で解析されているが、A4対称性の可能性以外として、S4対称性を用いた模型を構築し、CPの破れの大きさやニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊の有効質量を予言した。このS4模型でのCPの破れの大きさは符号を決めることができなかったので、現在知られている宇宙バリオン数非対称の観測結果を用いることにより、このS4模型でのCPの破れの符号を決定することができた。これらの結果は宇宙の粒子・反粒子の非対称性の謎を究明するための重要な手がかりとなる。クォークセクターに関しては現在知られている素粒子標準模型の素粒子にvector-likeクォークと呼ばれる新粒子を導入し、クォークセクターのCPの破れの大きさや、B中間子の希少崩壊に関してvector-likeクォークの寄与を計算し、質量を予言した。以上が研究の進歩状況であり、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度、平成29年度に調査・解析した非可換離散対称性A4やS4を超対象大統一理論に拡張する。超対称(SUSY)粒子の寄与を計算し、SUSY粒子のフレーバー構造を解析する。具体的には、非可換離散対称性はSUSY粒子であるスクォーク・スレプトンの世代構造をコントロールするので、世代構造に起因するケーラーポテンシャルやスカラーの3点結合であるA-term を計算し、フレーバーが変化する中性カレント(FCNC)への寄与を定量的に見積もることができる。そこで、B中間子の希少崩壊の過程や、CP対称性の破れの大きさを予言し、LHC等の実験での検証可能性を考察する。SUSY粒子のフレーバー構造を解析することにより、素粒子標準模型の世代起源の解明に迫る。また、ニュートリノ振動、LHC、XENON等の実験データに基づき、これまで調査・解析した模型の精密な検証を行う。具体的には、非可換離散対称性があると、非可換離散群の電荷によって、特定の崩壊が禁止される場合があるため、SUSY粒子以外にも暗黒物質の候補が現れる。この非可換離散対称性の特徴を用いて、暗黒物質の模型の構築に業績がある、J.W.F. Valle 教授(IFIC) との共同研究で昨年度に引き続き、暗黒物質を説明する模型を構築し、LHCやXENON 等の実験での検証可能性を探る研究を進める予定である。
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