研究課題/領域番号 |
16J05349
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 維央 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 強塩基 / 触媒 / エステル / アルキルアレーン |
研究実績の概要 |
1.強塩基触媒を用いた単純エステルの不斉1,4-付加反応の開発 筆者の所属する研究室では、反応中間体の塩基性に着目し、低酸性な基質を直接用いた塩基触媒型反応の開発を行っている。筆者らは、これらの低酸性基質の一つであるエステルを直接用いた不斉触媒的炭素骨格構築反応の開発を行った。具体的には、基質の構造を変化させることで立体選択性、特にジアステレオ選択性が変化することが判明した。反応条件を検討し、基質一般性の検討を行ったところ、幅広い基質に対して本反応系は適用可能であり、高収率・高立体選択的に目的物が得られた。また反応機構の考察のため、エステルやアミド等の種々求核剤と不飽和エステルや不飽和アミド等の求電子剤を組み合わせ、触媒反応が基質の組み合わせに依存するか検討した。その結果、本反応系では基質の組み合わせが非常に重要であり、適切な組み合わせを用いた際に反応が効率的に進行することを見出した。この結果から、本反応系では基質の酸性度及び反応中間体の塩基性のバランスが重要であることが判明した。
2.強塩基触媒を用いたアルキルアレーンの置換オレフィンに対する反応の開発 これまで筆者らはエステルなどの低酸性基質を直接用いた塩基触媒型反応の開発を行ってきたが、更なる発展を目指し、より低酸性な水素を有する化合物を直接用いた触媒的反応の開発を目指した。具体的に求核剤としてトルエンなどのアルキルアレーン類をターゲットとして反応開発を行った。アルキルアレーン類のベンジル位水素を効率的に引き抜く強塩基触媒としてKOtBu/LiTMP混合系を採用し、より強塩基性を有する反応中間体を発現する求電子剤としてスチルベン類を用いたところ、トルエンのスチルベンへの付加反応が触媒量のKOtBu/LiTMPの存在下円滑に進行し、目的の付加体が高い収率で得られることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今日まで極めて難しいとされ、反応例が殆ど報告されていなかった、エステルを直接用いた立体選択的触媒的炭素骨格構築反応を達成した。本反応系では新規大環状不斉クラウンエーテルを不斉配位子として用いているが、このような大環状構造を有する不斉クラウンエーテルを用いることで高いエナンチオ選択的が発現することは、筆者らがごく最近見出したアミドの例を除くとこれまで報告されておらず極めて興味深いと言える。また、本反応は様々な基質に適用可能であり炭素骨格構築反応として有用であると考える。さらに、反応機構の解析により、適切な求核剤及び求電子剤の選択が触媒反応の鍵であると判明した。この結果から、本反応の更なる発展が期待できると考えている。 また、アルキルアレーンを求核剤として反応について、これらの基質を直接用いた触媒反応はその殆どが遷移金属触媒を用いるものであり、コスト及び環境負荷の面で改善の余地があるといえる。今回筆者らが開発している反応においては安価で毒性の低いアルキル金属塩を用いている点で優れた反応であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、アルキルアレーンを直接用いた触媒反応の最適化を行うことを計画している。具体的には、用いる強塩基触媒を検討し、反応性及び選択性の向上を目指す。現在の検討ではKOtBu/LiTMPを強塩基触媒として用いているが、本反応の鍵となる触媒種はカリウムアミドであると考えられ、カリウムアミドの合成及びその評価などを行おうと考えている。また、不斉反応への展開に向けた不斉配位子の検討を計画している。不斉配位子として、前述した大環状不斉クラウンエーテルや、不斉ポリアミン等を検討する予定である。
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