研究課題/領域番号 |
16J05363
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
杉江 あい 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2020-03-31
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キーワード | イスラーム / (宗教)教育 / 出稼ぎ / NGO / バングラデシュ農村 / 中東 |
研究実績の概要 |
本年度に実施した文献調査からは,バングラデシュの(宗教)教育については一定の研究蓄積があることがわかった。特にマドラサ(イスラーム宗教学校)については,農村の貧困層をテロリストに仕立てる場として,しばしばメディアやバングラデシュの政治家の間でも問題にされてきたことから,その実態を明らかにし,マドラサに対するステレオタイプを覆そうとする研究が見られる。ただし,普通教育において行われている宗教教育等についての研究は見つからず,それに関する公的な資料等の情報も少ない。他方で,バングラデシュから海外に渡った移民・出稼ぎ者に関する研究については,イギリスの移民が彼(女)らの出身村にもたらす社会的・文化的影響を検討した先駆的研究が見られるものの,中東諸国への移民・出稼ぎ者に関して最近行われた研究は少ない上,既存研究では移民・出稼ぎによる経済的効果に焦点が当てられており,分析資料もバングラデシュ側のものに偏っている。本研究を進める上では,まず対象とする中東3カ国(サウディアラビア,ドバイ,オマーン)に居住するバングラデシュ人移民・労働者の実態を現地調査を通して明らかにするとともに,上記の先駆的研究の理論的枠組みを参考にしつつ,アメリカの南米移民に関する研究が使用している「社会的送付」という概念を援用・敷衍していくことが有効であると考えられる。 本年度は2017年2月5日から28日にかけてバングラデシュに渡航し,対象地域の農村において世帯調査とインタビューを行った。この調査からは,2012年(前回悉皆調査)以降,対象地域から中東3カ国に出稼ぎに行った者が増えたことがわかった。そのなかでも貧しい被差別集団の村では,出稼ぎ費用として,しばしばNGO等から貸しつけられる小規模ローンが利用されていたことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2016年9月に出産し,9月から12月まで産前・産後の休暇を取り,1月から2017年6月まで研究再開支援準備期間の適用を受けた。そのため,妊娠中から出産後まで海外フィールドワークを行うことができず,当初予定していた中東3カ国における予備調査は,28年度中に実施することができなかった。産前・産後の休暇に入る前は,研究発表や論文・著書執筆,バングラデシュにおける宗教教育と海外移民・出稼ぎ者に関する文献調査に努めた。産前・産後の休暇後は,論文の再投稿や依頼原稿・著書の執筆を進め,バングラデシュの対象地域の農村において予備調査を行った。首都ダッカにおいても宗教教育や海外出稼ぎ者に関する資料を収集したかったが,宗教施設や政府施設等,テロの標的となりやすい場所への訪問は控えるよう注意喚起されていたことから,これらの収集は次回の調査に行うことにした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,執筆作業と文献調査を進めつつ,本年度中に行ったバングラデシュでの予備調査を踏まえて,中東3カ国に滞在するバングラデシュ人と連絡を取り,調査への協力を依頼する。来年度に中東3カ国において予備調査を実施し,現在当該国に滞在している対象地域出身のバングラデシュ人の分布と滞在している地域の概況を考慮した上で,対象地域を選定する。この予備調査の成果を踏まえ,中東3カ国とバングラデシュにおける調査を本格的に開始する。中東3カ国では,出稼ぎ者が生活するコミュニティや職場においてインタビューや参与観察を行い,出稼ぎを契機に彼(女)らの信仰生活がどのように変化したのかを明らかにする。バングラデシュでは,各種教育機関において,それぞれの来歴,運営形態,教育内容,教師の学歴とその変化等について調査し,住民に対しては学歴,イスラームに関する知識や実践についてインタビューを行う。また,昨年度実施できなかったダッカにおける資料収集を行う。 文献調査の成果は,1.地域社会のイスラーム化(特に教育普及の影響に着目して),2.帰還移民・出稼ぎ者が地域社会にもたらす社会的・文化的影響について理論的な問題をレビュー論文としてまとめる。
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