研究課題/領域番号 |
16J05363
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
杉江 あい 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2020-03-31
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キーワード | イスラーム / 中東出稼ぎ・巡礼者 / 宗教会議 / 宗教教育 / バングラデシュ |
研究実績の概要 |
本年度は、当初の研究計画で8月に行う予定だったハッジ(巡礼)への参加は育児のため断念せざるを得ず、2月に計画していたドバイでの調査も調査協力者のビザが取れなかったため、やむをえず中止した。それゆえ、本年度も調査を行えたのはバングラデシュのみとなったが、本年度の調査では新しい重要な発見が3つあった。 第1に、本人またはその家族に対して聞取りした中東渡航経験のある住民の中では、サウディアラビアに渡航経験のある出稼ぎ者や巡礼者の間で、その宗教的実践や信仰が増したと話す人が最も多かった。その中の何人かによれば、サウディアラビア在住のバングラデシュ人が主体的に宗教会議を開いてイスラームに関する知識や実践を広めているという。第2に、聞取りした住民のほとんどが、以前と比べて住民の間でイスラームの知識が深まったとし、その要因として教育の広まりと宗教会議の増加が指摘された。子どもの宗教教育については、デオーバンド系のイスラーム宗教学校が男児・女児の両方を対象として、ここ10年間ほど運営されていることが明らかになった。成人の宗教教育については、タリムと呼ばれる女性を対象とした宗教会議が、ここ15~25年の間に増加していることが聞かれた。第3に、ムスリムの被差別集団からは、経済的な理由から子どもに十分な初等/宗教教育を受けさせられず、ごく基本的なイスラームに関する知識もないことが聞かれた。 これらの調査結果を踏まえると、バングラデシュ村落社会における中東地域への渡航(経験)者と教育の普及が、住民のイスラームに関する知識や実践を深化させているという本研究の仮説はある程度裏付けができてきたと言える。また、近年のイスラームの知識・実践の深化や広まりは、1980年代後半からのバングラデシュ農村の経済成長・教育の普及に伴い、宗教的活動・学習に取り組む有閑・富裕層が増加したことにもよっていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画で8月に行う予定だったハッジ(巡礼)への参加を、育児のため断念した。また、2月に計画していたドバイでの調査も調査協力者のビザが取れなかったため、やむをえず中止した。そのため、現段階での本研究の成果発表は、バングラデシュ農村の調査結果に基づくもののみとなっている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は当初計画していた中東諸国での調査を30年度に延期しなければならず、バングラデシュにおける調査のみ実施することが可能であったが、そこで新たに得た調査結果から、中東諸国での調査計画・内容をより明確にすることができた。30年度の6月には、サウディアラビアにウムラ・ハッジ(小巡礼)に行き、巡礼経験者や出稼ぎ労働者にインタビューを実施し、バングラデシュ人が主体となっておこなっているという宗教会議について調査を行う。ドバイでの調査については、アブダビ在住の研究協力者と継続して連絡を取り、調査協力者のビザ獲得、現地調査の実施を実現できるよう努める。 バングラデシュ農村ではこれまでと同様の中東渡航経験者および宗教教育に関する調査を引き続き行うとともに、タリムやデオーバンド系のイスラーム宗教学校の授業に参加し、宗教省や教育省など、宗教教育関連の政府/非政府系組織での調査も実施する。31年度には、1.中東諸国での調査成果、2.バングラデシュ農村での宗教教育に関する調査成果をそれぞれ論文として発表したい。
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