研究課題/領域番号 |
16J05393
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
久宗 穣 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | ヘキサフィリン / 安定ラジカル / πラジカル / パラジウム |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、非対称な大環状π共役分子である二重N-混乱ヘキサフィリン(1.1.1.1.1.0)分子を基盤として、金属錯化を鍵とした安定πラジカル錯体の合成とその光・磁気的性質の解明である。本研究における金属錯形成による配位子のπ電子操作は、πラジカル錯体の簡便合成だけでなく、多彩な中心金属の組み合わせによって希有な光学・磁性物性の創出が可能となる。 これまで申請者が報告している“26π”芳香族配位子から“25π”電子系ヘキサフィリンラジカル錯体への反応形式に倣い、同様に非対称骨格である“24π”電子系ヘキサフィリン(1.1.1.1.1.0)を配位子として用い、パラジウム錯化を行うことにより、新規な“25π”電子系のπラジカル錯体の構造同定および詳細な分光学的、磁気学的、電気化学的物性の比較検討を行った。得られたノンオキソ型二核パラジウム錯体はNMRおよびEPRスペクトル測定から有機ラジカル種様の磁気化学的特徴が観測された。また、量子化学計算(DFT)により環全体にスピン密度が非局在化しているπラジカル錯体であることが明らかとなった。ヘキサフィリン配位子からパラジウム中心への一電子移動により、安定な二価パラジウムが形成されたことがπラジカルを安定化した原因であると考えられる。一方、ノンオキソ型二核パラジウム錯体はすでに報告しているジオキソ型二核パラジウム錯体と異なり、大気雰囲気下、溶液状態において徐々に酸素化されたと思われる化学種へと変化することが、質量分析および吸収スペクトル測定より示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、左右非対称な配位子場を提供する二重N-混乱ヘキサフィリン(1.1.1.1.1.0)のパラジウム金属錯化反応により奇異な電子構造を有するπラジカル化合物の合成に成功し、続くモノオキソ型ヘキサフィリンラジカル錯体へと変換される特異な反応性について明らかとした。また、ノンオキソ型ヘキサフィリン配位子の化学酸化により得られた二重N-混乱”モノオキソ型”ヘキサフィリン(1.1.1.1.1.0)のパラジウム錯形成によって同様な生成物が単離することが達成された。 以上から当初の計画に記載した通り、環内部のカルボニル基の有無によって特異な反応性および光特性について見出すことが出来た。 今後さらに詳細な磁気物性や非線形光学特性を調べるための十分な準備が出来つつある。
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今後の研究の推進方策 |
初年度得られた結果に基づいて、安定生成物であるモノオキソ型ヘキサフィリン二核パラジウム錯体の構造解析や磁気特性、非線形光学特性の詳細を明らかにしていく。また、既報のジオキソ型πラジカル錯体との比較を行うことで芳香族性と物性相関の解明や、酸素原子の数の違いによる配位子構造と物性相関の解明を行う。 また、それにより得られるパラジウムπラジカル錯体の配位構造と物性の知見に基づいて、ヘキサフィリン配位子に対して別種類の金属イオンを作用させることで、配位子のノンイノセント性と金属の安定酸化数との組み合わせを考慮した柔軟な電子構造を持つ金属錯体の合成を行う。具体的には、パラジウムの同族元素であるNi(Ⅱ)やPt(Ⅱ)イオンを作用させ、軌道相互作用の度合いの違いに起因した物性変調を指向した新規な開殻分子の創製を行う。それぞれの錯化反応条件の最適化を行い、同様に分光、電気化学、磁気物性測定、並びに理論計算を行うことで、金属―配位子の構造物性相関について統一的な理解を目指す。
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