本研究の目的は、非対称な大環状π共役分子である二重N-混乱ヘキサフィリン(1.1.1.1.1.0)分子を基盤として、金属錯化を鍵とした安定πラジカル錯体の合成とその光・磁気的性質の解明である。本研究における金属錯形成による配位子のπ電子操作は、πラジカル錯体の簡便合成だけでなく、多彩な中心金属の組み合わせによって希有な光学・磁性物性の創出が可能となる。これまで申請者が報告している“26π”芳香族配位子から“25π”電子系ヘキサフィリンラジカル錯体への反応形式に倣い、同様に非対称骨格を有する、ノンオキソ型及びモノオキソ型の2種類の “24π”電子系ヘキサフィリン(1.1.1.1.1.0)を配位子として用い、パラジウム錯化を行うことにより、新規な“25π”電子系のπラジカル錯体の構造同定および詳細な分光学的、磁気学的、電気化学的物性の比較検討を行った。得られたノンオキソ型及びモノオキソ型二核パラジウム錯体の物性を比較したところ、NMRおよびEPRスペクトル測定から有機ラジカル種様の磁気化学的特徴が観測された。また、量子化学計算(DFT)により2種類のパラジウム錯体はともに環全体にスピン密度が非局在化しているπラジカル錯体であることが明らかとなった。ヘキサフィリン配位子からパラジウム中心への一電子移動により、安定な二価パラジウムが形成されたことがπラジカルを安定化した原因であると考えられる。ノンオキソ型ヘキサフィリン二核パラジウム錯体はラジカル種でありながら高い安定性を有しており、トルエン溶液中、空気条件下で遮光せずに放置していたところ、5時間は安定に存在し、変化していないことがUVスペクトル変化を測定していった結果、明らかとなった。
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