本研究は、泌乳中の繁殖能力低下による家畜の受胎率低下等の課題解決に資する基礎的知見の獲得するために、泌乳中の繁殖機能抑制を担う中枢メカニズムの解明を目的とした。哺乳類の繁殖中枢であるキスペプチンニューロンに着目し、泌乳期キスペプチン遺伝子Kiss1の発現抑制メカニズム解明を目的とし、昨年度は次の実験を遂行した。 ①脳内ソマトスタチンシグナリングの泌乳期繁殖機能抑制への関与 脳内でソマトスタチンニューロンが乳仔からの吸乳刺激を仲介し、視床下部弓状核においてKiss1発現を抑制するという仮説を立て、実験を行った。その結果、泌乳期のラット脳室内にソマトスタチン受容体2(SSTR2)阻害剤を投与することにより、(1)弓状核Kiss1発現細胞数が増加すること、(2)泌乳中の血中黄体形成ホルモン(LH)濃度の抑制が解除されることを明らかにした。また、(3)泌乳期におけるSSTR2阻害剤によるLH濃度の増加が、グルタミン酸受容体アンタゴニストの脳室内投与によって阻害された。以上の結果から、泌乳期に脳内ソマトスタチンおよびグルタミン酸作動性ニューロンがKiss1発現抑制、ひいては生殖機能の抑制に関与する可能性が示唆された。 ②キスペプチンニューロン可視化ラットの作出と検討 泌乳期のラットにおけるキスペプチンニューロンでのKiss1発現を制御する因子の探索を行うため、キスペプチンニューロン可視化ラットの作出を目指し実験を行った。当該年度は、キスペプチンニューロン特異的Creリコンビナーゼ発現ラット(Kiss1-Creラット)を作製し、所属研究室が有するレポーターラットと交配することにより、キスペプチンニューロン可視化ラットを作出する予定であったが、当該度中にキスペプチンニューロン可視化ラットの作出はできなかった。
|