研究課題
近年発見された鉄系高温超伝導体の中で、鉄カルコゲナイド超伝導体(11系)は、最も単純な結晶構造を有する。11系は構成元素の数が少なく、毒性の高いAsなどを含まないことから線材など応用面でも多くの注目が集まっている。FeSeは、高圧下で超伝導転移温度(Tc)が37 Kまで急激に上昇する。最近では、Kなどのアルカリ金属や有機物を層間に挿入することでもTcが30~40 K付近まで上昇することが報告されている。本年度は、FeSeは2元素のみで構成されていることに着目し、電気化学的にFeSeを堆積させる研究を行った。FeSeを電気化学的に堆積させるうえで、溶液温度を変えた場合の結晶成長の条件探索を行った。その結果、溶液温度が70℃の時に最も結晶性の良いFeSe単相が得られ、磁化測定から約8Kで超伝導転移を確認した。この結果は論文としてまとめ、Journal of the Physical Society of Japanへ投稿した。また、トルコでの国際会議SATF2016において、これらをまとめた成果で招待講演を行った。これまでは、試料と基板との密着性の低さや結晶粒の結合性の低さから、電気抵抗測定においてゼロ抵抗を示す試料は得られていなかった。今回得られた合成条件を基に、FeSeを堆積させる基板として(001)配向したRABiTSテープを用いて条件の探索を行ったところ、結晶粒間の結合性のよい試料が堆積される条件を見出し、約8Kで超伝導転移後、約3Kでゼロ抵抗を示す試料を合成することに成功した。本成果については論文投稿予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
FeTeS試料から電気化学的に過剰鉄を取り除き、超伝導を発現させる研究を行ってきている。また、電気化学的手法によるFeSe超伝導体の合成において、溶液温度を変えた場合の結晶成長の条件探索を行った。その結果、溶液温度が70℃の時に最も結晶性の良いFeSe単相が得られ、磁化測定から約8Kで超伝導転移を確認した(Journal of the Physical Society of Japanへ投稿中)。また、今回得られた合成条件を基に、FeSeを堆積させる基板として(001)配向したRABiTSテープを用いて条件の探索を行ったところ、結晶粒間の結合性のよい試料が堆積される条件を見出し、約8Kで超伝導転移後、約3Kでゼロ抵抗を示す試料を合成することに成功した(論文投稿予定)。電気化学的に堆積させたFeSe超伝導体において、合成後の熱処理なしでゼロ抵抗を示す試料を合成することに成功した初めての報告である。
FeSe電気化学合成において、基板を溶液に浸した際、基板表面に溶液中に溶解した元素が堆積することで基板表面状態が変わり結晶成長に影響することが懸念される。そこで、溶液への浸漬時間に対する表面状態の変化の検討、また、反応時間、印加電圧値など詳細な合成条件の探索を行うことで、より超伝導特性の高い試料の合成を目指す。本手法を応用すれば、“リールToリール”で連続的にFeSe超伝導テープ線材が作製できる。また、試料の層間に過剰な鉄が存在し超伝導を阻害していることが懸念されるが、電気化学的な引き抜きと組み合わせることで、堆積した試料から過剰鉄を取り除き、超伝導特性を向上させることができる。さらに、Kなどのアルカリ金属を電気化学的にインターカレートすることでよりTcの高い超伝導テープ線材を作製することも可能である。このように、電気化学的手法のみで、鉄カルコゲナイド超伝導体の合成と高性能化が行え、簡便で低コストな超伝導テープ線材の作製が期待できる。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
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