研究課題
近年発見された鉄系超伝導体の中で、鉄カルコゲナイド超伝導体(11系)は、最も単純な結晶構造を有する。11系は線材応用上重要となる上部臨界磁場が高く、構成元素の数も少ないため、高磁場下での超伝導線材応用が期待されている。これまでに電気化学合成のみの試料では、電気抵抗測定においてゼロ抵抗を示す試料は得られていなかった。本年度は、基板を溶液に浸してから電圧を印加するまでの浸漬時間が基板と試料に与える影響に着目し、ゼロ抵抗を示す試料の合成を試みた。電圧を印加せずに基板のみを溶液に浸して、基板表面のEDXによる組成分析を行ったところ、電圧を印加する前の段階で、基板表面にSe膜が堆積されることを見出した。また、浸漬時間を様々に変えて合成した試料の組成分析を行ったところ、浸漬時間が伸びるほど試料の組成比がFe:Se=1:1からずれていくことが明らかとなり、化学量論通りの試料を得るには、浸漬時間をなくすことが重要であることを見出した。その結果、浸漬時間が0秒の試料において、約8.4 Kで超伝導転移が見られ、約2.5 Kでゼロ抵抗を観測することに初めて成功した。また、浸漬時間と超伝導特性の間には相関があり、浸漬時間が伸びるほど、超伝導は抑制される傾向が得られた。この手法を応用すれば、“リールToリール”で連続的にFeSe超伝導テープ線材作製可能となるだけでなく、Kなどのアルカリ金属を電気化学的にインターカレートすることでより超伝導特性の高いテープ線材を作製することも可能となる。このように、電気化学的手法のみで、鉄カルコゲナイド超伝導体の合成と高性能化が行え、簡便で低コストな超伝導テープ線材の作製が期待できる。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の予定では、最終年度に行う予定であった電気化学合成によるFeSe超伝導体の合成を予定よりも前倒しで行うこととなった。29年度は、電気化学的手法によるFeSe超伝導体の合成において、溶液温度を変えた場合の結晶成長の条件探索を行った。その結果、溶液温度が70℃の時に最も結晶性の良いFeSe単相が得られた。また、基板を溶液に浸してから電圧を印加するまでの浸漬時間が伸びるほど試料の組成比が化学量論比からずれ、超伝導が阻害されることを見出した。また、浸漬時間を抑制することで、約8.4 Kで超伝導転移が見られ、約2.5 Kでゼロ抵抗を観測することに初めて成功した。アニールなどの熱処理を施していない電気化学合成のみの試料においてゼロ抵抗を観測した初めての例である。一連の研究結果をまとめたものは論文として、Journal of the Physical Society of JapanとSolid State Communicationsに掲載された。
29年度は、溶液温度と印加電圧の相関、基板を溶液に浸してから電圧を印加するまでの時間が基板と試料の特性に及ぼす影響について検討した。その結果、電気化学合成のみの試料において、初めてゼロ抵抗を観測することに成功した。しかしながら、ゼロ抵抗の値は、従来の固相反応法で合成した試料の値と比べると低く、ゼロ抵抗温度の向上が求められる。このゼロ抵抗温度が低い原因としては、初年度より研究を行っている過剰鉄による超伝導の抑制が関係していると推測される。そのため、これまでに培ってきた過剰鉄引き抜きの手法を用いて、合成後に逆電圧を印加し過剰鉄の引き抜きと超伝導特性の向上を試みる。また、試料の組成比は印加電圧や溶液温度などに大きく左右されるため、詳細な合成条件の探索による精密な組成比の制御による超伝導特性の向上を試みる。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 3件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 3件)
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