研究課題
平成28年度は研究計画調書に基づきピロールイミダゾールポリアミド (PIP) を用いた KRAS 変異を特異的に標的にできる分子標的薬の候補化合物である KR12 について以下に示す内容で研究を行った。KR12 の毒性試験を理化学研究所・バイオリソースセンター マウス表現型解析開発チームとの共同研究として行い、ICR マウスに対して 3.0 mg/kg の KR12 を静脈投与し、短期毒性と長期毒性を血液生化学検査、及び可視的検査を用いて解析した。その結果、対照群と比較して KR12 投与による異常は認められなかった。KR12 が認識する KRAS 変異を有する膵臓癌自然発症マウスモデルにおいて KR12 の抗腫瘍効果を大学院修士学生と評価した。マウスの腫瘍増殖を確認後 3.0 mg/kg KR12 を週 1 回腹腔内投与を継続、マウスの経過を観察し、生存期間を解析した。その結果、KR12 投与によって生存日数を有意に延長させた。KR12 の薬物動態試験を行うために FITC 標識 もしくは放射性同位金属カチオンと結合する Cyclam を付加した KR12 を渡部研究員の指導のもと合成した。Cyclam を付加した KR12 の薬物動態及び腫瘍集積性については PET イメージングを用いて解析しており放射線医学研究所のグループとの共同研究として行った。ヒト大腸癌細胞の異種移植マウスモデルに対して Cyclam を付加した KR12 を静脈投与し、その後の腫瘍集積性、及び体内分布を解析した。その結果、Cyclam を付加した KR12 は腫瘍への分布が観察されたが肝臓及び腎臓により多く分布していた。FITC 標識した KR12 (KR12-FITC) については、少量の合成に成功し細胞培養での薬剤の腫瘍細胞核内への集積を確認した。
2: おおむね順調に進展している
本研究は未だ薬剤開発が成されていない KRAS 変異を標的とした薬剤開発という点に意義があり、KR12 が革新的治療薬として開発承認されれば、上記がん腫をもつ多くの患者に対して有意な治療効果が得られると期待され、予後の改善のみならず一時緩解や副作用が少ないことでの QOL の向上にも繋がることに期待している。KR12 が臨床試験に移行する上で薬理効果、薬物動態及び安全性を解析することは必須な事である。したがって平成28年度において KR12 の安全性試験の一部で良好な結果が確認され、膵臓癌マウスモデルにおいて KR12 の抗腫瘍効果が認められたことは今後、開発を行って行く上で大いに評価できると考えている。一方で KR12 の抗腫瘍活性の結果より腫瘍集積性が期待されており、KR12 を FITC や 放射性同位元素の一つである Cyclam で標識して薬物動態の取得を試みたが、Cyclam を付加した KR12 においては期待通りの結果は得られなかった。この原因として Cyclam を付加することによって KR12 の物性が変化していることが考えられ、実際に極性の大きな変化が明らかとなった。また FITC 標識した KR12 においては合成に困難を要し動物実験を行うだけの量が確保できなかった。したがって、標識付加による KR12 の物性への影響及び合成そのものが複雑であるという問題のため計画が遅延してしまった。29 年度は KR12 標識化合物の合成を成功させ、薬物動態や腫瘍集積性を確認し、さらに肺がんなどの他の KRAS 変異腫瘍での薬効確認を行い、学術誌および国際学会での発表を必須として研究を行っていく必要があると考えている。
今後の研究の推進方策は平成 29 年度の研究計画調書に基づき以下に記述する内容で行う。大学院修士学生と行った膵臓癌自然発症マウスモデルに対する KR12 の薬効試験では、生存期間を延長させることに加え、腫瘍の縮小効果がみられたことや HE 染色によって対照群と比較して正常な膵臓細胞が多いことから KR12 が膵臓癌に対しても抗腫瘍効果を有することが明らかとなっている。本研究については研究室の一テーマとして行っており、29 年度においては膵臓癌に対する抗腫瘍効果のメカニズムを細胞実験で検証し、ヒト膵臓癌同所移植モデルを用いて KR12 の抗腫瘍効果を検証することを計画している。KR12 の薬物動態については引き続き FITC 標識及び放射性同位元素を付加した KR12 を用いて動態解析行う予定である。 KR12 の抗腫瘍活性の結果より、腫瘍集積性が期待されたが 28 年度に放射線医学研究所のグループとの共同研究として行った Cyclam を付加した KR12においては期待通りの結果は得られなかった。この原因として Cyclam を付加することによって KR12 の物性が変化していることが考えられ、実際に化合物の極性が大きく変化することが明らかとなっている。この問題を解決するために Cyclam 以外の放射性同位元素の標識方法を模索し、PET イメージングを用いて薬物動態及び腫瘍集積性を解析する。また FITC 標識した KR12 (KR12-FITC) については、少量の合成に成功し細胞培養での薬剤の腫瘍細胞核内への集積を確認している。29 年度においては動物実験で十分に使用できるための大量合成を行い、合成終了後担癌マウスモデルにおける腫瘍集積性及び体内動態を蛍光 in vivo イメージングシステムを用いて検討することを予定している。
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Advanced Techniques in Biology & Medicine
巻: Volume 4 ページ: -
10.4172/2379-1764 . 1000175