本年度は、研究発表の欄で挙げるような論文を出版するに至る成果を上げることができた。ここでは、通常考えられている標準的な宇宙論モデルを拡張したモデルに対して、Planck衛星による宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の温度ゆらぎ観測や宇宙の大規模構造の観測結果を用いてモデルのパラメータ制限を行った。通常、宇宙の曲率は厳密にゼロを仮定するが、本研究ではまずその仮定を外し、宇宙の曲率を考慮したモデルについて研究を行った。宇宙の曲率を考慮した場合、CMB温度ゆらぎや宇宙の大規模構造の種である初期ゆらぎのパワースペクトルが、平坦な場合と比べて変更されることが示唆されている。また、現在、宇宙は加速膨張を牽引しているダークエネルギーのモデルについて、本研究では具体的に3つのモデルを考え、宇宙の曲率も考慮した解析およびパラメータ制限を行った。パラメータ制限の結果、宇宙の曲率を考慮したこれらのモデルが、平坦な場合に比べて観測結果とより整合的であることがわかった。宇宙の曲率は正曲率が整合的であり、この場合、宇宙の曲率はエネルギー密度にして現在の宇宙の2~3%を占める。これらのモデルは、平坦な時空を仮定した場合にCMB温度ゆらぎの角度パワースペクトルの大角度成分に見られる観測データのパワー欠損をより良く説明できることがわかった。また、CMB観測から見積もられる現在の密度ゆらぎの振幅と実際に近傍宇宙の銀河観測から見積もられた密度ゆらぎの振幅との値の不一致を改善できることがわかった。
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