研究課題
磁気異方性と磁気緩和定数は磁性材料の性質を特徴づける重要なパラメータであり、スピントロニクス素子の性能を決める。例えば、現在精力的に研究されている磁気抵抗メモリ(MRAM)の情報記録を担う磁気トンネル接合(MTJ)に対し、磁気異方性は熱安定性、磁気異方性と磁気緩和定数はスピン注入磁化反転の閾電流を決める。特別研究員は、これ迄にCoFeB/MgO接合中の磁気異方性と磁気緩和定数の電界変調を強磁性共鳴法により観測した。本年度は磁気緩和定数の電界変調の起源を明らかにするために、強磁性共鳴スペクトルの温度依存性とCoFeB膜厚依存性を調べた。CoFeB膜厚が薄い時には強磁性共鳴スペクトルが温度の低下につれて先鋭化することを見いだし、この振る舞いは強磁性共鳴の解析に用いられてきたモデルでは説明できないことを示した。一方で、スペクトルの先鋭化は膜厚の厚い場合には観測されない。この現象の理解を中心に研究を行い、界面磁気異方性の熱揺らぎに起因する「モーショナル・ナローイング(運動による線幅の先鋭化)」によることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、界面磁気異方性を有する系における強磁性共鳴スペクトルの強磁性体膜厚、測定温度依存性を調べた。試料は界面磁気異方性を持つことでよく知られるCoFeB/MgO接合を用いている。低温になるほど線幅が増大する傾向を観測し、これを従来強磁性共鳴の解析には取り込んでいなかった機構を含むモデルを適用することで再現した。今回取り入れたモデルは核磁気共鳴でよく知られた機構であるが、従来強磁性共鳴の解析では注目されていなかった。さらに、膜厚依存性からこの現象が界面由来であることを明らかにした。界面磁気異方性は現在のスピントロニクスデバイスによく利用される効果であり、本研究は応用の面からも重要であると思われる。以上の成果から、今年度は期待通り研究が進展していると思われる。これまで強磁性共鳴を用いた磁性の電界効果の観測を行ってきたが、本年の成果を考慮することで電界効果の研究も加速するものと期待される。
次年度は磁性の電界効果に関する研究を推進する予定である。磁性の電界効果は強磁性薄膜に電界を印加することで、その磁気特性を制御するものである。電気的に磁性を操ることのできる簡便さと、ジュール熱の生じない制御方法であるため近年注目されている。しかし、これまではもともと強磁性になる材料のみに着目し、その特性を変える研究が主対象としていた。そこで次年度は常磁性金属の強磁性相転移を電界で引き起こす研究を進めたい。具体的には強磁性となる条件をわずかに満たさないパラジウムや、パラジウムとロジウムの合金の薄膜を用いる。常磁性金属薄膜の成膜はスパッタリング法で行い、パラジウムとロジウムの組成比を変えながら電界による強磁性誘起を実証できる構造を探究する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 9件、 招待講演 1件)
Proceedings of National Academy of Sciences of the United States of America
巻: 114 ページ: 3815-3820
10.1073/pnas.1613864114