研究課題/領域番号 |
16J05461
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大島 範子 慶應義塾大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | ウィリアム・ダヴェナント / イングランド内戦 / 王党派 / 牢獄 / 自己保存 / プロパガンダ演劇 / イメージ戦略 / 変節者 |
研究実績の概要 |
本研究は、William Davenant を、イギリスルネッサンス演劇と王政復古演劇という二つの区分けを、連続した一つの歴史として結びつける存在として位置づける。そして、元来王党派であったこの劇作家の、護国卿政府下における作品を、権力とのネゴシエーションという観点から分析することを目的とする。 本年度はまず、1650年代のDavenantが行っていたEntertainmentの周辺状況について精査した。40年代後半にフランスに亡命していたDavenantが身を寄せていた、チャールズ1世の妃Henrietta Mariaの宮廷における知的交流を背景として、Thomas HobbesがDavenantに及ぼした影響について考察するために、同時期に同じ宮廷にいた王党派、あるいはその他イギリス内外に散らばった王党派の残党による、Hobbes的な「自己保存の正当性」の受容について調査した。 そのうえで、劇場閉鎖期のイングランドにあって、護国卿政府のプロパガンダ的な役割を果たすものとして例外的に政府に上演を認められていながら、他の二作品と比べると、政治的立ち位置が、曖昧なThe Siege of Rhodesに特に注目した。そして、この作品が、護国卿政府のプロパガンダであると同時に、元々王党派でありながら議会政府に寝返ったダヴェナントによる、王党派に向けたある種の「弁解」として機能していると結論付けた。 研究成果については、まず、本年度五月の日本英文学会で発表した。さらに、より考察を勧めた論文を来年度にむけて執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
The Siege of Rhodesという舞台作品を、当時の政治パンフレットにおける表象のシステムと同時に、エリザベス朝以降のイギリス演劇の伝統にもつなげることが出来たため、当初期待した以上に広く、同時代の文化事象との関連を考察することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
当初、50年代のDavenantについて考察するために、次年度は比較対象として、内戦前、あるいは王政復古後のDavenantの作品を扱うつもりでいた。しかし、今年度の研究において私は、護国卿政府下におけるDavenantの作品には、40年代後半以降もスチュアートに忠実であり続ける王党派からの非難の視線に対する意識が強くみられると結論した。したがって次年度は、ダヴェナントを、50年代に議会派と何らかの形で折り合いをつけた元王党派たちの中にあらためて置いてみて、それぞれの、忠実であり続けて言う王党派との距離の取り方について考察し、比較することとした。こうすることによって、研究の視野をより広げることが期待できると考えている。 1650年代の、護国卿政府に何らかの意味で「寝返った」王党派たちの文学について考えるにあたって、まず、1640年代後半のCharles I自身の処刑直後に出版されたEikon Basilikeをその集大成とする、王党派の一連の「牢獄文学」というべきものをデータベース化することが必要となる。王党派が劣勢になるにつれ、「牢獄」は、捕縛された王党派がその忠誠心を試される場として機能するようになり、投獄された王党派はしばしば自らを、迫害に耐える殉教者のように表象した。このような作品のうち、校訂版が出ているものに関しては書籍を購入し、それ以外の、よりマイナーな王党派の作品に関しても、言説圏を構成するパーツとして、EEBOなどを用いながら収集し、分析対象とする。また、必要に応じてBritish Libraryやその他現地アーカイブに赴く。
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