研究課題/領域番号 |
16J05495
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
飯島 択郎 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | Supergene / メス特異的なベイツ型擬態 / シロオビアゲハ / 全ゲノム解析 / 染色体逆位 / dsx / Wnt family gene |
研究実績の概要 |
無毒な生物種が有毒な種に似せて捕食を回避するベイツ型擬態は広範な生物に見られるが、その分子的背景はほとんど知られていない。シロオビアゲハ(Papilio polytes)は、有毒チョウであるベニモンアゲハにベイツ型擬態をするチョウとしてよく知られる。擬態型メスの表現型は1遺伝子座(H locus)によって制御され、また擬態型(H)は非擬態型(h)に対して優性であることが遺伝学的に示されている。これまでの研究成果より、H, h 間ではdsx下流の遺伝子ネットワークで異なる経路が選択され、メスにおいてのみ擬態型と非擬態型の違いが現れる現象を引き起こしていると考えられた。そこでシロオビアゲハにおけるベイツ型擬態の分子メカニズムの解明を目指し、「dsx下流の遺伝子ネットワークの探索。」のテーマのもと研究を進めた。 実験手法としては以下の3段階の方法を行った。①H由来dsxを標的としたsiRNA を導入した個体のRNA-seq解析。②DE-seq program による発現変動遺伝子の探索。③エレクトロポレーションによる機能解析。 本研究室が確立したエレクトロポレーション法により、②によって得られた2遺伝子(Wnt1, Wnt6)を標的とするsiRNAをシロオビアゲハ擬態型メス翅に導入することで、標的遺伝子のノックダウンによる影響を視覚的に確認した。その結果、白色紋様はWnt1によって制御されており、赤色スポット紋様は2遺伝子(Wnt1, Wnt6)によって制御されていることが機能的に証明された。また、H由来dsxを標的としたsiRNAを導入した時の3遺伝子(dsx, Wnt1, Wnt6)の発現量を定量的Real Time-PCRにより定量・比較したところ発現量の変動傾向が一致していた。これにより2遺伝子(Wnt1, Wnt6)はdsx下流で働いていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シロオビアゲハのベイツ型擬態を考える上で重要なのは、メスにのみ擬態型が生じ、またメスには2種類の表現型が生じることである。これまでの研究成果よりH, h 間ではdsx下流の遺伝子ネットワークで異なる経路が選択され、メスにおいてのみ擬態型と非擬態型の違いが現れる現象を引き起こしていると考えられた。そこでシロオビアゲハにおけるベイツ型擬態の分子メカニズムの解明を目指し、「dsx下流の遺伝子ネットワークの探索。」のテーマのもと研究を進めた。 実験手法としては以下の3段階の方法を行った。①H由来dsxを標的としたsiRNA を導入した個体のRNA-seq解析。②DE-seq program による発現変動遺伝子の探索。③エレクトロポレーションによる機能解析。 本研究室が確立したエレクトロポレーション法により、②によって得られたdsx下流で働いていると考えられる5遺伝子(Wnt1, Wnt6, brick-a-black-1(bab-1), bab-2, AbdA)のうち、2遺伝子(Wnt1, Wnt6)を標的とするsiRNAをシロオビアゲハ擬態型メス翅に導入することで、標的遺伝子のノックダウンによる影響を視覚的に確認した。その結果、白色紋様はWnt1によって制御されており、赤色スポット紋様は2遺伝子(Wnt1, Wnt6)によって制御されていることが機能的に証明された。また、H由来dsxを標的としたsiRNAを導入した時の3遺伝子(dsx, Wnt1, Wnt6)の発現量を定量的Real Time-PCRにより定量・比較したところ発現量の変動傾向が一致していた。これにより2遺伝子(Wnt1, Wnt6)はdsx下流で働いていることが示された。 このようなアプローチはこれまでに行われたことがなく、技術的な意味のみならず、dsx下流のネットワークを見出した点で大きな進展があったと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の結果を補強するために2遺伝子(Wnt1, Wnt6) を標的としたsiRNAを導入した時の3遺伝子(dsx, Wnt1, Wnt6)の発現量を定量・比較することを2年次に行う予定である。また、候補として選定したdsx下流で働いていると考えられる残りの3遺伝子(bab-1, bab-2, AbdA)についてもエレクトロポレーションによる機能解析および定量的Real Time-PCRによる遺伝子発現量の定量解析を行い、擬態紋様形成に必要か否かを精査する。この解析手法によりdsxを中心としたシロオビアゲハにおける擬態紋様形成の遺伝子カスケードが明らかになると期待される。これらのデータに関しては論文の形式にまとめ2年次に投稿する予定である。 ナガサキアゲハはメスにのみ二型(擬態型・非擬態型)が存在し、擬態型(A)が非態型(a)に対して優性であること、ナガサキアゲハとシロオビアゲハは系統的に近いことが分かっている(Kunte, 2009)。しかし、擬態の原因となる遺伝子座は同定されておらず、分子メカニズムについても明らかとなってはいなかった。当研究室では精度の高いシロオビアゲハのゲノム配列が構築されている。そこで、ナガサキアゲハのゲノム配列を新たに構築し、シロオビアゲハゲノム配列と比較することおよび表現型との連関を見ることで、ナガサキアゲハにおけるベイツ型擬態の責任領域を同定できるのではと考え、「シロオビアゲハと近縁なベイツ型擬態を示すチョウ(ナガサキアゲハ)の比較ゲノム解析による責任領域の同定。」のテーマのもと研究を進めている。これまでに得られた結果のうち、dsxの二型および遺伝子型解析については既に論文投稿し、公開されている(Komata et al., 2016)。
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