研究課題/領域番号 |
16J05500
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
西原 諒 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | バイオケミカルセンサー / 生物発光 / イメージングプローブ / 蛍光タンパク質 / ルシフェリン / ルシフェラーゼ / 化学センサー / セレンテラジン |
研究実績の概要 |
(1)新規生物発光基質を用いたバイオアッセイ系の構築 生物発光酵素RLuc8.6並びにALucにおいて高輝度発光を示す生物発光基質セレンテラジン(CTZ)誘導体開発に成功し、酵素ALucを用いたタンパク質間相互作用分析ツール開発に成功した。更に19種類のCTZ誘導体を合成し、酵素ALucまたは RLuc8.6に各々特異的に反応する新規CTZ誘導体を見出した。これに基づいて、ALuc発光系または RLuc8.6発光系によるタンパク質間相互作用解析実験を進めたところ、標的細胞において 2 種類のタンパク質間相互作用を同時にイメージングする革新的なバイオ分析技術の構築に成功した。 (2)超高輝度生物発光基質の開発 基質と酵素のドッキングシミュレーションを検討、更に高輝度発光を示す CTZ誘導体の設計・合成を試みた。酵素反応において有効な立体障害の小さい官能基修飾を施した20種類の新規CTZ誘導体を合成、細胞において市販されているCTZ誘導体(DeepBlueCTM)の約50倍の発光輝度を示した。また新規高輝度CTZ 誘導体による癌細胞の1細胞イメージングにも成功した。 (3)赤色発光基質の開発 生体深部の癌細胞を光で検出するには、水やヘモグロビン等の生体分子に吸収されにくい近赤外領域(650-900 nm)の光が必要である。一方でこれまで報告したCTZ誘導体はいずれも青色発光(400-500 nm)を示すものであり、その分析応用は細胞に限られている。CTZ発光系による生体内イメージングを目指し、自ら見出した基質改変可能部位を基に、赤色発光型CTZ誘導体開発に着手した。具体的にはCTZの6位に有機蛍光色素を結合させ、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)現象を利用することで、発光波長の長波長化を目指した。現在は天然のCTZより約100 nm長波長化したCTZ誘導体の開発に成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生物発光はその発光色の種類が乏しいため、複数の生体分子を異なる色で観察するマルチカラーイメージングなど多成分同時分析法への応用は困難なものであった。本研究では、約20種類の新規CTZ誘導体を合成、生物発光酵素RLuc8.6並びにALucに各々特異的に反応する新規基質開発することで、酵素の基質特異性を活かした多成分同時分析を実現し、革新的なバイオアッセイ系の構築に至った。また高輝度化に関して、自ら見出した基質改変可能部位(CTZ6位)を基に約20種類の新規誘導体合成に成功し、既存技術の約50倍の高輝度化を達成した。新規高輝度誘導体は、実際に癌細胞の高感度検出を可能にしている。従って本研究で開発した基質を用いることで、今後発光酵素RLucを用いる様々なバイオアッセイ系の高感度化が望める。 更にCTZ6位に有機蛍光色素を修飾したBRET型誘導体を合成したところ、酵素RLuc8.6に効率的に認識され、天然のCTZよりも約100 nm長波長化した発光を観察することに成功した。CTZの蛍光色素修飾による発光波長の大幅な長波長化に成功した例は未だになく、今後修飾する色素の種類を変える事によって様々な発光色を持つ生物発光系の開発が可能になる。
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今後の研究の推進方策 |
BRET型基質誘導体開発研究は、RLuc生物発光系における大幅な発光波長の長波長を達成するために非常に有効な手段である事が分かった。これまでの研究成果より新規基質開発による超高輝度生物発光系の開発に成功した。従って今後は発光酵素に近赤外蛍光タンパク質を修飾したBRET型生物発光タンパク質を新たに開発することで、高輝度かつ近赤外に発光を示す生物発光系の開発が期待出来る。BRET型生物発光タンパク質による生物発光系の長波長化は当初計画していなかったが、大幅な生物発光系の長波長化が望めると考えた。高輝度赤色発光系の開発後、マウス生体内でのがん細胞検出への応用を試みる。 これまでに50種類以上のCTZ誘導体の開発を行っており、CTZ6位置換基改変体が発光酵素RLuc8.6とALucにより効率的に認識される事が分かった。しかしその詳細な酵素認識メカニズムは未だ未解明である。従って今後は、CTZの酵素認識に関与している2,6,8位における置換基導入効果を網羅的に調べる事で、基質の酵素認識メカニズムの解明を目指す。そのために生物発光特性をより詳細に評価するため、生物発光量子収率やミカエリスメンテン定数など、物理定数の算出を行う予定である。 またこれまでに開発した超高輝度基質の機能化を行う事で、細胞内チオールバイオイメージングへの応用を目指す。
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