研究実績の概要 |
有機ラジカルは、それが持つ不対電子に由来した磁性や酸化還元特性、光化学特性など特異な物性を有することから機能性材料としての応用が期待される分子群である。しかしながら、一般的に不安定な有機ラジカルを安定化できる骨格は限られており、さらなる発展が求められている。申請者らは前年度に引き続き、ポルフィリノイドの高いラジカル安定化能力に注目して、様々な機能性分子の構築に取り組んでいる。 本年度は前年度に見出した基底高スピンかつ安定なポルフィリン縮環ベンゼン1,3,5-トリアミニルラジカルの研究をまとめ、論文および学会にて発表した。その後、ポルフィリンのラジカル安定化能力 を他の不安定化学種の安定化に応用できないかと着想し、ナイトレニウムイオンの安定化を目指した研究を行った。 ナイトレニウムイオンはカルベンの窒素等電子体であり、生化学や合成化学の重要な反応中間体である。形式的に窒素原子がオクテット則を満たさない電子不足化学種であり反応性が高いことから、その安定化には窒素中心に直接電子供与性のアミノ基を結合させる方法のみが知られていた。本研究では安定なジポルフィリニルアミニルラジカルを一電子酸化したところ、対応するナイトレニウムイオン種が良好な収率で得られた。このナイトレニウムイオンはシリカゲルでの精製が可能であるほか、高温条件やメタノール中でも安定であることを明らかにした。これらは窒素中心に直接アミノ基が結合していないナイトレニウムイオンを初めて単離・構造決定した例である。また、アミニルラジカルのプロトン化によりナイトレニウムイオンが生じるなど興味深い現象も明らかになった。
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