研究課題/領域番号 |
16J05556
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田仲 玲奈 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(SPD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | ナノセルロース / レオロジー / 動的複屈折 / 固有粘度 / 長さ分布 / 緩和時間分布 |
研究実績の概要 |
ナノセルロースとは、主に木材セルロースを水中で解繊することによって調製される新規バイオ系ナノ材料である。一般に、ナノセルロースは長さ分布を有しており、長さ分布はナノセルロース含有材料の物性に影響を及ぼすと考えられる。これまでに、長さ分布は主に顕微鏡観察法によって評価されているが、顕微鏡観察法では数百本のナノセルロースの分布しか評価できず、水中におよそ数億本あると言われる全ナノセルロースの長さ分布を評価することは困難である。そこで本研究では、分散液の動的複屈折測定により、ナノセルロースの緩和時間分布を評価することで、長さ分布の評価を試みた。 はじめに、ナノセルロース/水分散液を用いて測定を行ったところ、非常に低粘度であったため、動的複屈折値を正確に測定することができず、極めて狭い周波数域でしか緩和時間分布を得ることができなかった。 高分子の動的複屈折測定においては、時間あるいは周波数スケールと温度変化が互換となる経験則(時間―温度換算則)が適用できることが報告されている。そこで本換算則に基づき、高沸点かつ高粘度の有機溶媒に分散したナノセルロースを用いて、幅広い温度域で動的複屈折測定を行うことで、ナノセルロースの緩和時間分布の評価を目指した。 ナノセルロース/水分散液をグリセリンに溶媒置換したサンプルを用い、動的複屈折測定を行ったところ、幅広い温度域で動的複屈折を測定することができた。その結果、ナノセルロースの緩和時間分布を得ることができた。今後は、得られた緩和時間分布からナノセルロースの長さ分布の評価を試みる。高分子の粘弾性理論に基づき、緩和時間分布から長さ分布を見積もる。得られた長さ分布を、透過型電子顕微鏡法により評価した長さ分布と比較し、本評価手法の最適化および確立を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、分散液の動的複屈折測定により、ナノセルロースの緩和時間分布を評価することで、長さ分布の評価を行うことを目的とした。ナノセルロース/水分散液の動的複屈折測定から長さ分布を評価するためには、①ナノセルロースどうしの相互作用の影響がみられない希薄分散液を用い、かつ②長さ分布と相関のある緩和時間分布が測定できる広い周波数域で測定を行う必要がある。しかし、ナノセルロース/水希薄分散液は非常に低粘度であるため、動的複屈折の値が微小であり正確に検出することができず、極めて狭い周波数域でしか測定ができなかった。 この問題を解決するため、はじめに、動的複屈折値の計測システムを改良することで、ナノセルロース/水希薄分散液の緩和時間分布の評価を目指した。微小信号の測定に適したロックインアンプを動的複屈折測定装置と組み合わせ、ロックインアンプによって微小な動的複屈折値の検出を試みた。しかし、低周波数域ではロックインアンプが機能せず、予想とは反し、緩和時間分布を得ることができなかった。 次に、高分子の時間―温度換算則(時間あるいは周波数スケールと温度変化が互換となる経験則)に基づき、高沸点かつ高粘度の有機溶媒に分散したナノセルロースを用いて、幅広い温度域で動的複屈折測定を行うことで、緩和時間分布の評価を目指した。ナノセルロース/水分散液をグリセリンに溶媒置換したサンプルを用い、動的複屈折測定を行ったところ、幅広い温度域での動的複屈折を測定することができた。 以上のように、サンプル種の選定および測定手法の改良において、当初の計画よりも長時間を要したため、進捗がやや遅れてしまった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の後半において、ナノセルロース/グリセリン分散液を用いて動的複屈折測定を行うことで、ナノセルロースの長さ分布と相関のある緩和時間分布を得られることを見出した。来年度前半では、得られた緩和時間分布から長さ分布を評価する手法の確立を目指す。具体的には、透過型電子顕微鏡法によりナノセルロースの長さ分布を評価し、高分子の粘弾性理論に基づき緩和時間分布から得た長さ分布と比較検討を行う。現段階では平均長の短いナノセルロースについてのみ検討を行っているが、本サンプルで長さ分布評価法を確立した後、平均長の長いナノセルロースについても同様の検討を行う。 来年度後半では、申請時の年次計画に従い、二つ目の研究テーマである「ネットワーク型ナノセルロース分散液の流動特性とサイズ分布解析」を行う。申請者のこれまでの研究に従い、ずり粘度測定により求めたネットワーク型ナノセルロース/水分散液の流動特性(固有粘度)から、ネットワークドメインのサイズを評価する。動的光散乱法により、分散液中のネットワークドメインのサイズを求め、ずり粘度測定より求めたサイズと比較検討を行う。
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