今年度は前年度に引き続いて、レオロジーの手法によるナノセルロースの長さ分布評価について検討した。前年度には、ロックインアンプと動的複屈折測定装置を組み合わせることで、ナノセルロースの長さ分布と相関関係がある緩和時間分布を測定できることを明らかにした。今年度は、本実験手法の信頼性の確認を行い、実際にナノセルロースの長さ分布の評価を試みた。信頼性については、動的粘弾性測定のモデル物質の一つである臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAB)/サリチル酸ナトリウム(NaSal)水溶液を用いた測定により確認した。次に、加重平均長が340 nmのナノセルロース/グリセリン分散液を動的複屈折測定に供し、ナノセルロースの緩和時間分布を実測した。剛直性棒状高分子の希薄域における粘弾性理論を適用すると、ナノセルロースの実測緩和時間分布は、顕微鏡観察により得た長さ分布から計算した緩和時間分布と良く一致していた。すなわち、ナノセルロースの長さ分布は動的複屈折測定により評価できることが明らかになった。一方、本分散液を動的粘弾性測定に供すると、動的複屈折とは異なり、半屈曲高分子に類似したスペクトルを示した。動的複屈折では主にナノセルロースの配向由来のモードが観測されるため、ナノセルロースを剛直棒と仮定することができ、剛直性棒状高分子の理論が適用可能であった。しかし動的粘弾性では、配向モードだけでなく引張や曲げなどの屈曲性由来のモードも観察されるため、このような違いが生じたと考えられる。得られた粘弾性スペクトルを半屈曲高分子の経験的粘弾性理論(ハイブリット理論)と比較したところ、ナノセルロースの屈曲性は熱運動によって長軸方向に生じた引張変形に起因することが新たに示された。以上の成果については、現在学術雑誌への論文投稿を準備中である。国内外での学会発表も精力的に行い、計三件の招待講演も行った。
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