研究課題
これまでに、全身性のノックイン型インスリン受容体変異マウス(mIR-KI)とアルツハイマー病モデルマウス(NLGF)を掛け合わせて作製した、インスリン抵抗性ADモデルマウス(mIR-KI, NLGF)が著明な認知症状および精神症状を誘導することを明らかにしてきた。本研究課題では、そのメカニズムについて以下の2点について解析した。A.mIR-KI, NLGFにおける低分子代謝物の解析:キャピラリー電気泳動質量分析を利用し、低分子代謝物について網羅的に解析した。NLGFの血漿では、血中グルコース濃度の上昇に同調して、神経伝達物質に関連する低分子化合物が変動していた。予想に反し、血漿中では糖代謝物の変動は小さかった。B.ノックイン型神経特異的インスリン抵抗性ADモデルマウス(Neu-mIR-KI, NLGF) の作製:mIR-KI, NLGFのAD症状増悪における、インスリン抵抗性の責任細胞を同定する。神経伝達物質の調節に関連が大きい神経細胞に着目し、特異的にインスリン受容体変異をノックイン誘導するADモデルマウスを作製する。Neu-mIR-KI, NLGFは、① 神経細胞特異的なCamk2a-CreERT2 ② 独自に作成するFlox-mIR-KI、 ③ NLGFの3系統を掛け合わせることで作製する。Camk2a-CreERT2とNLGFとの2系統の掛け合わせは完了しており、Flox-mIR-KIは現在作製中である。P1195L変異は、インスリン受容体遺伝子 (Ir遺伝子) の22のExonのうちExon 20に存在する。Exon 20ー22を連結した配列、およびその変異を含む配列とLoxPなどの付加配列を含むDNAを合成した。これにより、ベクターサイズを15 kb程度と短くすることで、KI標的化ベクターに組み込むことに成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
グルコース代謝物と神経伝達物質の関連について、メタボロームの導入により順調に解析することができた。また、脳内での変化にのみ注目していたが、全身レベルにおいても神経伝達物質の合成代謝が変動していることが明らかとなり、この点については予想以上の収穫を得ている。新規マウスの作製については、ベクター作製に少し手間取ったものの、その後迅速に進めることができ遅れを取り戻すことができた。CRSPR/Cas9システムを用いたコンディショナルノックインマウスの作製という課題自体に前例がなく、複雑な遺伝子設計ではあるが、新規マウス系統の樹立の見通しは明るい。
血中において、グルコール濃度と神経伝達物質に関連する代謝物が同調的に変動していることが明らかになった。今後、脳内のグルコース量と神経伝達物質の合成代謝が同調しているのかを、メタボローム解析を用いて明らかにする。さらに、この変化がインスリンシグナルを介しているか否かを分子生物学的手法を用いて明らかにする。Flox-mIR-KIは、作製したKIベクターを用いてES細胞へのインジェクションを実施し、変異導入クローンを選別したのち、キメラマウスの作製を経て確立を進める。ES細胞への変異導入には、CRISPR/Cas9システムを利用して実施する。オフターゲット効果のないguideRNAを設計し、標的配列と変異配列の組み換えを実現する。確立したFlox-mIR-KIとあらかじめ作製したCamk2a-Cre, NLGFとの交配により、神経特異的インスリン抵抗性アルツハイマー病モデル(Neu-mIR-KI, NLGF)を作製する。Neu-mIR-KI, NLGFに対して、行動病理学的な解析を実施し、その表現型のメカニズムについて、グルコース代謝およびインスリンシグナルに着目して解析する。
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Scientific Reports
巻: 6 ページ: 29038
10.1038/srep29038
http://www.m.chiba-u.jp/class/clin-cellbiol/research/contents/increasing_age.html#jump1