研究実績の概要 |
これまでに、脳内インスリン抵抗性は、アルツハイマー病(AD)の病態形成に重要な役割を果たしていることが示唆されており、その機序として、脳内におけるグルコースやその代謝関連物質の病的な変化が考えられる。そこで、ADモデルマウス(APP-KI)とインスリン抵抗性マウス(IR-KI)を掛け合わせて作製したインスリン抵抗性ADモデルマウスについて、行動学的変化と脳内糖代謝について検討を進めている。昨年度は、特に以下の点について解析を進めた。 【IR,APP-KIにおける行動学的解析】 まず、認知機能を評価するため、短期記憶の評価系であるY字迷路試験、長期記憶の評価系として場所指向性試験を実施した。IR, APP-KIとAPP-KIを比較したところ、Y字迷路試験における自発交代行動には差が認められなかったが、場所指向性試験では、新規環境に対する指向性が、IR, APP-KIでは減少していた。今後詳細な解析を進めていく。
【IR,APP-KIにおけるアセチルコリン系の解析】 アセチルコリンは、グルコースの代謝物であるアセチルCoAと、グルコースと類似した輸送系で細胞内に取り込まれるコリンを原料として生合成される。アセチルコリンは、その認知機能への関与の大きさを考慮すると、脳糖代謝と行動学的変化を結びつける重要な低分子化合物である。そこで、アセチルコリンの機能的な評価を実施するため、脳内の血流調節機能に着目し、東京都健康長寿医療センター研究所 自律神経機能研究室の堀田晴美研究部長と共同研究を実施した。マウスの左上腕部の尺骨神経を電気刺激すると、マイネルト神経核のアセチルコリン神経を介した、大脳皮質における血流増加反応が認められる。現在は、IR,APP-KIおよびAPP-KIについて血流増加反応を比較し、アセチルコリン神経系の機能的解析を進めている。
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