研究実績の概要 |
当該年度ではまず、α7受容体の機能低下が認知機能の低下に関与しているかどうかを、行動試験により解析した。アルツハイマー病モデルマウス(APP-KI)およびそのインスリン抵抗性マウス(APP,IR-KI)に対する、MLA(α7受容体ブロッカー)の作用を比較した。新奇物体認識試験に、APP-KIはMLA投与による認知機能低下を示したが、APP,IR-KIは認知機能低下を示さなかった。この結果は、APP-IRではα7受容体が機能的であるのに対し、APP,IR-KIはα7受容体が機能していないことを示唆している。 さらにα7受容体の機能低下のメカニズムを明らかにするため、インスリン受容体の機能標的である糖代謝機構に着目し、メタボローム解析を行った。予想外にも、大脳皮質の糖代謝関連代謝産物にはほとんど変化が認められなかった。一方、ポリアミン化合物であるスペルミン、スペルミジンの増加を確認した。大脳皮質における神経伝達物質の含量を調べたところ、アセチルコリン、グルタミン酸、GABA、モノアミン類に変化はなかった。そこで、スペルミンの増加がα7受容体機能に与える影響について、α7受容体の機能的発現細胞(TARO細胞)を用いて解析した。TARO細胞では、α7受容体アゴニストであるコリンを処置すると、Ca2+蛍光指示薬Fluo-4の細胞内蛍光が増大する。そこで、TARO細胞に、ポリアミン分解抑制を目的としたポリアミン酸化酵素阻害薬とスペルミンを同時処置し、細胞内スペルミン濃度を上昇させたところ、コリン誘導性のCa2+シグナルの増大の抑制が見られた。以上より、スペルミンはα7受容体機能を抑制することが明らかとなった。 よって本研究では、インスリン抵抗性がアルツハイマー病病態を増悪させ、この作用は大脳皮質におけるスペルミン濃度の上昇がα7受容体の機能を抑制することに起因する、ことが示唆された。
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