研究課題/領域番号 |
16J05585
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
秋田 拓也 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 常磁性液晶 / ニトロキシドラジカル / 磁気円二色性 / 電子スピン共鳴 / マイクロカプセル |
研究実績の概要 |
キラルな物質は磁場印加により磁気光学効果の一種である磁気キラル二色性(MChD)を発現することが知られている。MChDは光伝播の磁場制御を可能にするので、次世代の磁気光学デバイスへの応用が期待されている。しかし、キラリティと磁性、すなわち円二色性(CD)と磁気円二色性(MCD)の両立が困難なため、MChDは観測自体が困難なほど弱い効果となり、デバイスへの応用は進展していない。一方、申請者が合成してきたキラル常磁性液晶では、自己組織的に形成するキラルな分子配列によってキラリティ(CD)が非常に強く増幅される。さらに、特異な分子間相互作用が発現し、通常の反磁性化合物と比較して1-2桁大きな磁化率を有するので、CDと同時に強いMCDを示すことが期待できる。本研究の目的はキラル常磁性液晶を基軸として、強いMChDを発現する新材料を創出し、これまでにない全く新しい磁気光学デバイスを開発することである。 平成28年度の研究計画として、従来よりも大きな磁化率を発生する新規キラル常磁性液晶を合成することでCDと同時にMCDを増強し、実際にその化合物のMCDおよびMChDの測定を行うことを計画していた。しかし、異方性媒質である液晶相では、汎用の測定装置を用いた測定は非常に困難であったので、液晶測定用装置の組立に取り組む一方で、より簡単な系である「常磁性液体」のMCDの測定を行った。常磁性液体は約450 nmで磁気円二色性ピークを示し、そのピーク強度は温度依存性を示したことから、MCDの中でもFaraday C項由来の成分であることを明らかにした。これは純有機化合物がスピン角運動量由来のFaraday C項を示した初の例である。この研究に関しては国内の学会において発表を行い、学生講演賞を受賞した。この研究に関する論文を現在執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者は当該2年間において、キラル常磁性液晶を用いることで磁気円二色性を増幅し磁気キラル二色性を強く発現させること、および、キラル常磁性液晶を用いた新規液晶デバイスを開発することを計画している。これに対して、申請者は平成28年度中に常磁性液晶の前段階として常磁性液体の磁気円二色性の測定を行った。また、常磁性液晶の磁気円二色性にはその磁性が強く影響すると考えられるので、平成28年度のうちに、常磁性液晶が示す特異な磁性に関する研究を積極的に行った。具体的には、液晶相における分子間相互作用の不均一性を電子スピン共鳴スペクトルから定量的に求め、液晶相における磁化率との関係を考察した。その結果、不均一な分子間相互作用が液晶相における特異な磁性に強く影響を与えることを明らかにした。さらに、平成29年度の研究計画として予定していた「キラル常磁性液晶を用いた新規磁気光学デバイス」の開発に、予定よりも早く平成28年度中から取り掛かった。まず、平成28年度では、マイクロ流体デバイスを用いて、キラル常磁性液晶をシェル部としたマイクロカプセル状を作製することに成功した。この常磁性液晶マイクロカプセルは金属類を一切含まないにも関わらず磁石に引き付けられることを世界で初めて示した。また、キラル常磁性液晶をマイクロ流体デバイスに適用する過程で、キラル常磁性液晶のような高粘度液晶をマイクロ流体デバイスへ適用することを可能にする汎用性の高い方法を開発することに成功した。 以上の成果は学会発表5件のほか、学術誌への発表論文2件などとして公表している。また、申請者の研究成果は様々な領域の研究者から高く評価され、ポスター賞および学生講演賞を受賞した他、発表論文のうち1件が掲載誌の表紙に採用された。以上より、本年度の進捗状況として「当初の計画以上に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に引き続き、キラル常磁性液晶の磁気円二色性および磁気キラル二色性の測定を行っていく。ただし、異方性媒質である液晶相における磁気光学測定は非常に困難であるため、キラル常磁性液晶のレーザー発振を利用した間接的・広義の意味での磁気キラル二色性の測定も行う予定である。いずれの場合においても、測定用の装置を設計・組立および、実験条件の最適化を行う。また、上述の実験を行う際にはキラル常磁性液晶が大量に必要になるので、その合成も平行して行う。 また、磁気円二色性および磁気キラル二色性の増強には、(1)磁化率の増強および、(2)吸収係数の増強が有効である。キラル常磁性液晶は結晶相よりも液晶相で磁化率が上昇するという得意な現象を示すが(磁気液晶効果)、この効果を強く発現させることが(1)の達成に有効であると考えられる。そこで、種々の新規キラル常磁性液晶を合成し、電子常磁性共鳴(EPR)装置およびSQUID磁束計を使用して磁化率の評価を行う。また、キラル常磁性液晶にアゾベンゼンやクマリンなどの色素骨格を導入し、吸収係数の増強を行うことで(2)を達成する。上述の2つの戦略のもと、平成28年度に引き続き有望な物質群の探索およびその設計指針の確立を行う予定である。 さらに、キラル常磁性液晶の磁気キラル二色性および磁場応答性を利用した、これまでにない全く新しい液晶デバイスの開発を目指す。特に、キラル常磁性液晶を従来行われてきたフィルム状ではなく、カプセル状に成形することで、3次元全方位に磁気光学的な機能を示すデバイスの開発を行う。より具体的には、キラル常磁性液晶が示す磁気光学物性を利用し、発振方向や発振波長を磁場で3次元全方位にチューニング可能な磁性液晶レーザー発振器の開発を目指す。
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