研究実績の概要 |
本研究では,発散磁場中におけるイオン静電加速メカニズムの解明とその宇宙推進への応用を目的としている.今年度は直流放電ないし高周波放電によるプラズマ生成手法がイオン加速特性に与える影響を実験により評価した.さらに,プローブ法によるプラズマ診断実験を実施し,プラズマの生成・加速過程における一連の物理機構を調査した. 直流放電によるプラズマ生成では,リング型陽極の内面と,軸方向発散磁場との位置関係が重要である.リング型陽極の内面に沿って軸方向に作動ガスを供給することで「Hollow anode効果」が作用し電離が促進される.発散磁場終端付近においてプラズマ電位は下流の陰極電位に向かって降下し生成したイオンを静電加速する.このとき生じる電位差は別途測定したイオンビームエネルギーの値とよく一致しており,発散磁場中のイオン静電加速過程解明に成功した.なお本成果はAppl. Phys. Lett., vol. 109, 053901 (2016) にて発表した. 上記発散磁場の上流部に高周波プラズマ源を設置しプラズマの生成・加速過程を分離することで,イオン静電加速の高効率化を試みた.これまで,プラズマ源への高周波電力を変化させた場合のイオン生成・加速特性を実験により取得した.プラズマ源の作動がイオンの生成・加速特性に与える寄与は作動ガス流量に応じて異なる.小流量作動時においてはプラズマ源でのイオン生成が重要となり,供給した作動ガスの93%に相当するイオンを生成し,放電電圧の88%に相当するエネルギーまで静電加速することに成功した.一方,大流量作動時においては,プラズマ源に投入した高周波電力は2価イオン生成に消費され,静電加速への寄与は限定的であった.これらの実験を通じ,実効イオン生成コストで決定される最適高周波電力比を見出し,宇宙推進機としての推進性能最適化に向けた重要な知見を得た.
|