研究課題
これまで、申請者はRO1-xFxBiS2(R:希土類、アクチノイド)の高純良な単結晶育成法を確立するべく、CsClフラックス法やCVD法等の方法により試行錯誤を行った。その結果、LaO1-xFxBiS2においては(x=0.1-0.5)およびEuFBiS2の純良単結晶の育成に成功した。両系において、申請者が育成した単結晶を用いて結晶構造解析および基礎物性測定を行い、以下の成果を得ることに成功した。(1)LaO1-xFxBiS2母相のLaOBiS2を用いた回折実験結果から、結晶構造解析を行い、単斜晶P21/mに歪んでいることを世界で初めて見出した。フッ素濃度を増やしていくと、x = 0.5の試料で、正方晶P4/nmmで非常に良く精密化できることがわかった。今回、S1サイトの温度因子がS2およびその他の原子の2倍ほど大きく、かつab面内で大きく揺らいでいることがわかった。さらに、低温での構造を調べるために、温度を下げながら単結晶X線回折実験を行ったところ、x=0.3,0.4,0.5の室温以下で超格子反射強度をBiS2系で初めて観測した。超伝導転移温度が大きく上昇する温度および圧力下で回折実験を行ったところ、加圧下では結晶構造が正方晶から低対称化し、かつ超格子反射は消失することがわかった。これらの事実から、超格子変調または、正方晶構造が高Tc超伝導相を抑制している可能性があることがわかった。(2)EuFBiS2電気抵抗は半導体的振る舞いを示し、これまでの多結晶との報告とは異なることがわかった。このことから、EuFBiS2はキャリアがドープされていないと考えられる。磁化測定の結果、2価であることがわかり、混合価数状態ではないことがわかった。さらに、室温以下でのX線粉末回折実験の結果から、ピークの分裂および半値幅の増大は見られないことから、構造相転移はしていないと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
(1)La01-xFxBiS2系La系においては単結晶を用いた局所構造の解明を目的としていたため、x=0.0-0.5の単結晶の育成を試み、成功した。これらの結晶を用いて、KEK-PF(BL-8)において単結晶構造解析実験を行い、フッ素濃度xを変化させながら精密に構造の変化を調べた。その結果、結晶構造がフッ素濃度xおよび温度に強く依存し、複数の構造相転移を示すことを見出した。現在、x=0, 0.2,0.3,0.4,0.5においてKEKにおける回折実験を終了しており、最近、x=0.1の単結晶育成に成功した。今後、x=0.1の単結晶構造解析実験を行う予定である。さらに、この系で超伝導転移温度が最も高くなるx=0.5の低圧相および高圧相における構造回折実験を行った。その結果、予期せず低温での超格子反射強度の発達を観測した。さらに圧力を印加し、高圧相で実験を行ったところ、超格子反射強度の消失および結晶構造の低対称化を確認し、超伝導発現機構に関わる重要な事実を見出した。(2)EuFBiS2Eu系の単結晶においてCDW転移と超伝導の共存についての検証を目的としており、単結晶育成を試みた。Eu系の単結晶育成は非常に難しく困難を要したが、結晶育成の方法を変え試行錯誤を行うことで、育成に成功した。磁化および電気抵抗測定から混合価数状態ではないことがわかった。さらに、室温以下でX線粉回折実験を行うことで構造相転移の検証を終え、今後より詳細な輸送特性の測定を行う予定である。
(1)LaO1-xFxBiS2これまでの実験からLaO1-xFxBiS2はフッ素濃度および温度に依存し、結晶構造を変化させることがわかった。そこで、今後、育成した単結晶(x=0.0-0.5)を用いて、フッ素濃度xおよび温度と結晶構造に関する相図を作ることを目指す。また、超伝導と結晶構造の相関を調べるため、各フッ素濃度において電気抵抗および磁化測定を行い、超伝導特性を調べる。(2)EuFBiS2今後は、単結晶を用いて、これまで調べられていない輸送特性(ホール、磁場中抵抗、比熱)を測定する。そのため、より物性測定が容易な大きいサイズの単結晶を育成するための条件を模索する。(3)ThO1-xFxBiS2,UO1-xFxBiS2アクチノイド化合物は一般的に単結晶育成が非常に難しい。そこで、申請者はアクチノイド化合物が扱える東北大学金属材料研究所に赴き、RO1-xFxBiS2(U,Th)の育成を試みた。現在、UO0.5F0.5BiS2の試料において単結晶X線回折実験を行った。その結果、格子定数の測定結果から、BiS2系化合物が出来ている可能性が非常に高いということがわかった。今後は、より詳細な構造パラメータの精密化および物性測定(磁化、電気抵抗)を行うための試料集め等を行う予定である。
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Phys. Rev. B
巻: 95 ページ: 035152
https://doi.org/10.1103/PhysRevB.95.035152
arXiv
巻: 1702 ページ: 1,21
arXiv:1702.07485