研究課題
本研究課題の目的は、歯の放射能測定による動物体内に取り込まれたSr-90とCs-137の総量、および内部被ばく線量の推定である。本年度は歯種ごとに個別に測定を行い、Cs-137の歯への取り込み機構の解明を試みた。測定の結果、Cs-137の歯への取り込みは歯の形成時期との関係が希薄であり、歯の形成状態やウシの年齢に関わらずCs-137は歯に取り込まれていた。その中で、福島事故時点で年齢が若かったウシの一部の歯において他の歯よりもCs-137を多く取り込んでいた。これらのCs-137の取り込み量が多かった歯は、事故初期にCs-137の取り込み量が多かったことを示している可能性があった。重量あたりのCs-137濃度は、筋肉、他の臓器 > 歯 > 血液 という大小関係であった。また、福島県内旧警戒区域内における環境中から歯へのCs-137の移行状況を明らかにすることを試みた。環境中におけるCs-137比放射能の大小関係は、土壌 = 土壌可給態 > 植物 ≧ ウシの歯 となっていた。したがって、被災ウシの採取時点では歯中のCs-137は摂取していた植物中Cs-137との関係が強いことが明らかになった。ただし、土壌可給態と植物のCs-137比放射能が一定になっていないことから、環境中におけるCs-137は十分に拡散していないと考えられる。よって、環境中からCs-137のウシの歯への取り込み量も時間経過により変化する可能性がある。さらに、全身の測定が可能な試料の採材を進めた。福島県南相馬市で採取されたサルを対象とした。 まず、解剖により猿の臓器、骨、歯を摘出した。サルの臓器は放射能測定に十分な量を確保できた。筋肉中の放射性Csによるコンタミネーションを防ぐため、全身骨、ならびに歯の周辺に付着した筋肉等の組織を除去した。次年度に先行して1頭分のサルの骨と歯中のSr-90を測定した。
1: 当初の計画以上に進展している
当初初年度の目標であった、「歯へのCs-137への取り込み機構」、「環境中から歯へのCs-137移行状況」、「サルの全身測定試料の調整」の全てを達成することができ、さらなる結果を得られたことから計画以上に進展があったと判断した。歯へのCs-137の取り込み機構は、Sr-90との比較を行うため歯ごとに測定を行うことでその取り込み機構を明らかにできた。また、その他のウシの臓器を測定を行なったことで、歯中Cs-137濃度と他の臓器との比較を行った。この結果は本研究の最終目標である歯による全身のCs-137量推定に非常に役立つデータであった。また、環境中から歯へのCs-137の移行は、被災ウシと福島県内旧警戒区域内で採取された土壌と植物を対象として測定を進めることができた。当初予定していた汚染稲わら給餌試験のウシではなく、実際に汚染された環境で採取された試料を測定に使用できた。そのため、ウシが生息していた環境中でのCs-137の移行状況を明らかにすることができた。この測定に使用した試料は福島第一原発事故由来のSr-90を含んでいると考えられるため、次年度以降測定を進めることでSr-90の環境中での移行を明らかにすることができると考えられる。サルの全身測定試料は福島県南相馬市で採取された複数頭のサルを用いて調整した。福島第一原発事故後に誕生したと考えられたサルであるため、歯から全身のSr-90とCs-137の総量を推定するためには最適の試料である。今年度に1頭分の歯と骨中のSr-90を測定することができたため、次年度の測定の見通しが立った。以上のことから、現在のところ当初の計画以上に研究が進展したと判断した。
本研究課題の目的は、歯の放射能測定による動物体内に取り込まれたSr-90とCs-137の総量、および内部被ばく線量の推定である。2年目は、環境中から歯へのSr-90の移行状況を明らかにする。前年度にはCs-137の環境中での移行状況を明らかにしたが、環境中での挙動はCs-137とSr-90で異なる。特に、福島第一原発事故由来のSr-90は飛散しやすい形態で環境中に沈着したと考えられるため、環境中で移行しやすいと考えられる。そこで、ウシの歯と福島県内旧警戒区域内で採取された土壌、土壌か球体、植物中のSr-90を比較することで、環境中でのSr-90の移行状況を明らかにする。この結果、Sr-90、Cs-137共に環境中から歯への移行係数が明らかになり、環境中から歯への取り込み量の時間変化の解明につながる。また、内部被ばく線量推定に向けサルを中心とした被災動物の歯と骨のSr-90、全身のCs-137を測定する。Srは生体内でほぼ全てが歯と骨に存在することから、歯と骨中Sr-90の総量が明らかになれば内部被ばく線量の推定が可能である。Cs-137は一般的に筋肉で濃度が高くなる傾向があるが、ほぼ全身に存在する。そこで2年目は前年度に試料調整したサルの全身試料について測定を行う。Sr-90は歯と骨中のものを測定し、Cs-137はそれらに加え筋肉、臓器等についても測定を行う。測定結果からサルの全身のSr-90とCs-137の総量を明らかにし、歯から体内の2核種の総量を推定を可能にする。
Scientific Reports誌への論文発表に際してのプレスリリース
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Scientific Report
巻: 6 ページ: 24077
10.1038/srep24077
Proceedings of the 17th Workshop on Environmental Radioactivity
巻: 1 ページ: 122-127
巻: 1 ページ: 128-133
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2016/04/press20160411-01.html