研究課題/領域番号 |
16J05824
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
田中 健太 岡山大学, 自然科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | トポロジカル超伝導体 / スピン三重項超伝導体 / 多成分渦糸状態 / 準古典理論 / マヨラナ準粒子 |
研究実績の概要 |
当該年度では、スピン三重項超伝導体の候補物質ルテニウム酸化物またはその他候補物質の磁場下における物理量の振る舞いを明らかにするための理論研究を行った。特に、スピン三重項カイラルp波またはヘリカルp波超伝導対称性といったトポロジカルに特別な超伝導状態を想定し、その超伝導対称性を反映した磁場下の超伝導状態として多成分渦糸状態に注目した。そして、多成分渦糸状態おける物理量がどのような振る舞いとなるかを数値計算によって探索した。また、これらトポロジカル超伝導体の磁場下の性質を明らかにすることは、トポロジカル超伝導体の工学的な応用へと繋がるだけなく、素粒子物理学でも盛んに研究が行われているマヨラナ準粒子の性質を明らかにする上でも重要な課題となっている。以下では、具体的な研究成果について記述する。 本研究では渦糸格子状態を想定した準古典アイレンバーガー方程式を解くことによって物理量の空間・磁場依存性の振る舞いを定量的に算出した。特に、研究成果が得られたものとしては局所的な核磁気緩和率と局所状態密度の2つに関するもので、両物理量が特殊な空間または磁場依存性を示すことを明らかにした。また、局所的な核磁気緩和率に関しては、カイラルp波またはヘリカルp波超伝導体の多成分渦糸状態における局所的な核磁気緩和率の空間・磁場依存性がパルス磁場の向きに依存して大きく値を変化させることも示した。局所状態密度に関しては、ヘリカルp波超伝導体の多成分渦糸状態において、渦糸内部の局所状態密度がスピン偏極することを明らかにした。このスピン偏極した局所状態密度の振る舞いは、スピン偏極STM/STS測定によって測定できる可能がある。加えて、本研究で明らかにした特殊な物理量の振る舞いは、マヨラナ準粒子状態と関係しており、これら特徴的な振る舞いを観測することはマヨラナ準粒子の実験的な理解を推し進めるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の研究実施計画の通り、スピン自由度を含む準古典アイレンバーガー方程式を解くことによって、トポロジカル超伝導体の多成分渦糸状態の物理量の振る舞いを明らかにした。特に、渦糸格子状態を想定した自己無撞着な数値計算を実行することで、多成分渦糸状態における様々な物理量の空間・磁場依存性を定量的に算出することに成功した。そして、これら物理量が実験において、どのように観測されるのかを明らかにした。また、より詳細なデータを得るために、計算環境としてマルチコアを有する計算機を導入し、並列計算を実行した。そして、得られた研究成果を、論文または学会を通して国際的に発表することで研究成果の波及に務めた。具体的には、アメリカ物理学会誌Physical Review Bへの論文掲載、国際学会を含む複数の学会発表を行った。これら研究活動は、当該年度における科研費によって実施することが可能となり、研究実施計画の通りに研究を推し進めることができた。 また、当該年度の研究内容である、熱伝導率の面内磁場角度依存性に関しても現在遂行中で、ケルディッシュ形式での準古典理論と線形応答理論から導出される熱伝導率の定式化を行い、加えて渦糸格子状態を想定した準古典アイレンバーガー方程式を解くことで熱伝導率の面内磁場角度依存性の数値計算を行っている。また、関連する研究として、状態密度の面内磁場角度依存性に関する研究も、同研究室所属の後輩と共同研究という形で取り組んでおり、多くの知見を得ることができた。一方で、研究実施内容に示していた、スピン軌道相互作用を考慮した多成分渦糸状態における物理量の研究に関しては、現時点では研究成果をまとめるには至っておらず、次年度の研究でより発展させていく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策としては、主にトポロジカル超伝導体の多成分渦糸状態における熱伝導率の面内磁場角度依存性、スピン軌道相互作用を考慮した常磁性帯磁率(ナイトシフト)と局所状態密度または核磁気緩和率の空間依存性の解析を実施する予定である。本方策において、特にスピン三重項超伝導状態を特徴付けるdベクトルの向き、カイラルまたはヘリカル超伝導状態に注目し、これらdベクトル構造が物理量に与える寄与を明らかにする。また、計算手法としてはこれまでと同様に渦糸格子状態を想定し、さらにスピン自由度を含む準古典アイレンバーガー方程式による数値解析を行う。加えて、スピン軌道相互作用を考慮することで、多自由度の系における物理量の振る舞いを明らかにする。また、マヨラナ準粒子状態と局所的な物理量との関係性を明らかにすることも目的に含む。以下では、各物理量に関する研究内容の詳細を記述する。 まず、熱伝導率の面内磁場角度依存性に関しては、現在遂行中のスピン一重項超伝導体を対象とした計算結果をまとめるとともに、ドップラーシフト法などの従来の計算手法で得られる振る舞いや、測定値との比較を行う。そして、この知見をもとに、スピン三重項超伝導体の多成分渦糸状態における熱伝導率の研究へと発展させ、dベクトル構造に起因した多成分渦糸状態における熱輸送現象を探索する。 また、常磁性帯磁率と局所状態密度または核磁気緩和率の空間依存性の解析に関しては、スピン軌道相互作用がdベクトル構造に与える影響を考慮し、多成分渦糸状態における上記の物理量がどのような振る舞いを示すのかを明らかにする。また、スピン軌道相互作用によってマヨラナ準粒子が磁気異方性を示すことも予想されており、その性質と物理量との関係性も考察する。 そして、得られた研究成果については、積極的に国際誌へと論文投稿を行い、国内外の学会発表を通して波及させる。
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