研究課題/領域番号 |
16J05845
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
茂垣 里奈 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 分子糊 / 光制御 |
研究実績の概要 |
本研究では、これまでに開拓してきた分子糊に光応答性スペーサーとタンパク質の阻害剤を組み合わせ、『接着性光スイッチ』を開発する。この接着性光スイッチを細胞内・生体内のタンパク質機能の制御に応用することで、生物現象を時空間的に制御することを目的とする。これまでに、炭酸脱水酵素(CA)を標的酵素とし、分子糊、紫外/可視光照射に応じて異性化するアゾベンゼン、CA阻害剤の三者を連結した接着性光スイッチを開拓している。また、接着性光スイッチをCAと混合することで、紫外/可視光照射によって酵素活性を可逆的に増減させることに成功している。当該年度では、CA活性の光制御が細胞溶解液中や赤血球溶解液中といった夾雑タンパク質存在下でも可能であることを明らかにした。これは、分子糊部位が阻害剤の選択性によって標的タンパク質へと誘導されていることを示唆しており、接着性光スイッチの細胞内や生体内への応用可能性に関する重要な知見を得た。また、CAの活性部位への結合に伴い蛍光を発する蛍光色素との競合実験から、阻害剤部位の結合が分子糊部位の接着によって増強されていることを確認し、提唱している接着性光スイッチのメカニズムの妥当性を示した。 生体内で生物現象を光制御するためには、生体透過性に優れる長波長領域の光で駆動する分子が必要となる。当該年度では、前述の接着性光スイッチの合成過程で、高い水溶性・生体内安定性をもつ可視光駆動アゾベンゼンの開発に成功した。これは、本研究の目的である細胞内・生体内でのタンパク質機能制御に極めて有用であり、接着性光スイッチの設計に新たな指針を与えるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究者自身が開拓した接着性光スイッチについて研究戦略の実証に成功している。また、研究過程での発見を元に、生体透過性に優れる可視光で駆動するアゾベンゼンの開発に成功している。これらの成果は、細胞内・生体内における生物現象の機能制御を目指す上で重要な知見となる。
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今後の研究の推進方策 |
接着性光スイッチを用いた生物現象の時空間的制御を達成するために、あらかじめ接着性光スイッチを導入したタンパク質を細胞内へ輸送し、細胞機能を制御する。特に、接着性光スイッチを用いて、細胞内に輸送したカスパーゼ-3(CSP-3)の活性を光制御し、アポトーシス(プログラム細胞死)を遠隔的に操作する。生体内への応用を志向し、接着性光スイッチの分子設計を最適化する。特に、光応答性スペーサーとして、既報および研究者自身が開拓した可視光駆動アゾベンゼンを検討する。合成した接着性光スイッチ共存下、光刺激によってCSP-3活性が変化するかを調査する。また、接着性光スイッチをCSP-3と混合してがん細胞に投与し、光刺激によるアポトーシス誘導の有無を調査する。さらに、接着性光スイッチをCSP-3と混合してがん移植モデルマウスに投与し、光照射による抗がん活性と副作用の有無を評価する。
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