研究課題
中性子星(NS) 低質量連星系(LMXB)は、太陽質量以下の恒星とNSとの連星系で、伴星から絶えずNSに質量降着が起きている。降着物質は、NS周辺に降着円盤を形成する。また、比較的磁場が弱いため、物質は最終的にNS表面に堆積し、臨界温度を超えると核融合反応を起こし爆発する。NS LMXBのスペクトルは、円盤からの黒体輻射とNS表面からの黒体輻射がNS星周辺に存在する希薄な高温プラズマで逆コンプトン散乱された2つの成分で説明できることが先行研究から知られている。しかし、典型的なNS LMXB である Aql X-1の約30 keVに、前述の2つの成分では説明できない超過構造があることを見つけた。伴星からの降着物質の主成分は水素なので、NS大気は、陽子が豊富な環境にある。このような環境下で核融合反応が起こると、早い陽子捕獲反応 (rp-process)で原子番号Z=52付近までの重元素が合成されることが知られているので、構造を説明する一つのシナリオとして、その構造のモデリングから重元素存在の可能性を調査した。本研究で分光観測から、重元素存在の証拠を得ることができれば、核融合反応の直接的な証拠の発見につながり、またエネルギーの赤方偏移を測定することで、NSのコンパクトネスを決定することができる。今年度は30 keVの構造に対して、gaussianモデルと再結合放射モデルを適応して説明を試みた。その結果、両モデルでスペクトルをよく説明できた。典型的なNS表面での重力赤方偏移を考慮して、重元素は水素様まで電離していると仮定すると、元素輝線を想定した場合では、gaussianの中心値から想定される元素は、rp-process元素では説明できなかった。一方、再結合放射モデルの場合、K吸収端のエネルギーから想定される元素はZ=48-51となり、rp-process元素と矛盾しなかった。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していた、ASTRO-H衛星による中性子星のコンパクトネスの研究は、ASTRO-H衛星の事故により実施することができなくなった。そこで、「すざく」衛星のアーカイブデータを用いて研究を進めることとした。今年度は、典型的な中性子星LMXBであるAql X-1のスペクトルを詳細に解析し、30 keVに存在する構造のモデリングと有意度の検証を行うことができた。この構造の解釈はまだ定まっていないが、rp-processで生成される元素で矛盾しないことまで確かめることができたので、概ね順調であると言える。
今年度はまず、前年度に行った「すざく」衛星の Aql X-1 のデータ解析結果を投稿論文としてまとめる。10月に NuSTAR 衛星で70 ksecという長期間に渡り観測された、質の良い Aql X-1 のデータが公開されるので、その解析を行い、構造の有無とそれを説明するシナリオについて決着をつける。また、NuSTAR の解析結果を国際学会で発表するとともに、論文としてまとめる。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 3件)
Nuclear Instruments and Method in Physics Research A
巻: 838 ページ: 89-95
10.1016/j.nima.2016.09.024