研究課題
中性子星低質量連星系 (NS-LMXB)は、太陽質量以下の比較的軽い星と、中性子星との連星系で、伴星から絶えず中性子星に質量降着が起きている (Type-I バースト)。伴星からの降着物質は、角運動量を保持したまま降着し、降着円盤を形成する。また、降着物質は中性子星表面に堆積し、臨界温度を超えると核融合反応を起こし爆発する。NS-LMXBはスペクトル形状から、ソフト状態とハード状態に分けられる。ソフト状態は、降着円盤からの軟X線放射が卓越している時期で、ハード状態は、中性子星表面もしくは円盤からの黒体輻射が中性子星周辺に存在する希薄な高温プラズマ (コロナ) で逆コンプトン散乱されて硬X線で明るい時期に対応する。これまでの研究から、NS-LMXBの観測スペクトルは、どちらの状態においても、大局的には、降着円盤からの放射と、中性子星表面からの黒体輻射がコロナで逆コンプトン散乱された2つの成分で説明できることが知られている。しかし、典型的なNS-LMXB であるわし座 (Aql) X-1のおよそ30 keV付近に、前述の2つの成分では説明できない超過構造があることを私たちは見つけた。この構造がType-I バーストにより生成された重元素由来であることが、分光観測から証明できれば、初めて元素合成の直接的な証拠が得られることになる。また、この元素起源の構造のエネルギーの重力赤方偏移から、中性子星のコンパクトネスを調べることができる。当初予定していたASTRO-H衛星は、姿勢系の事故により失われ、データを使うことができなくなったので、この構造を使って研究を継続することとした。昨年度、この構造が Gaussian モデルまたは再結合放射モデルで、統計的に矛盾なく説明できることがわかったので、今年度は、この2つのモデルに対して、考えられるシナリオを考察した。
2: おおむね順調に進展している
構造を説明する2つのモデルについて、それぞれ考えられるシナリオの考察まで完了した。それぞれの定性的なシナリオは以下の通りである。(1) Gaussian モデル:大気中にある中性もしくは電離した重元素からのK輝線放射。(2) 再結合放射モデル:なんらかの原因により電離した重元素が、大気中の自由電子を捕獲してX線を放射。現在、Aql X-1に関する解析結果を論文にまとめている。このように、研究としては成果をまとめる段階にあるので、進捗は概ね順調であると言える。
現在執筆中の論文は4月末に PASJ に投稿し、今年度中に受諾を目指す。7月にはアメリカで行われる国際会議、COSPARで口頭発表を予定している。あわせて今年度は、これまでの研究結果を学位論文としてまとめる。
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