本研究は、免疫抑制性受容体LILRB2とそのリガンドであるHLA-G2の分子認識機構を中心に解析することで、LILRB2と多様なリガンド群との分子認識機構を解明することを目的としている。昨年度は、フリーのシステイン残基をセリン残基に置換した変異体を用い、HLA-G2ダイマーの更なる多量体化へシステイン残基の寄与の可能性を示した。また、HLA-G2のLILRB2との結合における細胞での機能を解析する準備として、ヒト末梢血単球や単球から分化させた樹状細胞でLILRB2の発現を調査した。今年度は、特にHLA-G2のLILRB2との結合における細胞での機能に着目して解析を進めた。ヒト末梢血から分離したLILRB2を発現する単球を、これまで解析を進めてきた組換えHLA-G2蛋白質存在下で二日間培養したところ、HLA-G2を加えずに二日間培養した場合と比べて、サイトカイン産生、細胞表面・内蛋白質の発現が変化することを明らかにした。この変化は、これまで示唆されてきたHLA-G2の免疫抑制能のメカニズムの一つを説明し得るものであった。昨年度報告したHLA-G2とLILRB2の結合を阻害する抗体を用いてブロッキング実験を行ったところ、HLA-G2によるLILRB2発現単球の変化が減少した。更に、LILRB2を発現する単球由来樹状細胞で同様の実験を行ったところ、単球と同様のサイトカイン産生、細胞表面・内蛋白質発現変化の傾向が見られた。この変化が、樹状細胞の機能と関連しているかを調べるために、混合リンパ球反応実験を行ったところ、HLA-G2を作用させた樹状細胞を用いた場合、HLA-G2を作用させていない樹状細胞を用いた場合と比べて、活性化されて増殖するT細胞の割合が減少した。今回の実験から、HLA-G2がLILRB2陽性樹状細胞を免疫抑制性の樹状細胞へと変化させる機能をもつ可能性が示された。
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