研究課題
電磁気モーメントは原子核の単一粒子構造や変形状態などに感度があり、原子核基底状態での構造を調べる上で重要な物理量である。中性子過剰原子核の基底状態電磁気モーメント測定は、ベータ法と空間的にスピンをある方向に偏らせた(スピン偏極した)不安定核ビームを組み合わせて、測定されてきた。しかし、中性子過剰な原子核を偏極させるのはその生成方法から非常に難しい。特に本研究で、対象とする中性子過剰なNe原子核は、安定核ビームから多くの核子をはぎ取る必要があり、非常に小さな偏極しか生成できず、既存のベータNMRは適用が難しい。そのため本研究では、理化学研究所RIBF施設で生成方法が開発されたスピンをある軸に偏らせた(スピン整列した)ビームを電場勾配のある単結晶基板に打ち込み、そこでのゼーマン分離をベータNMR法で測定するという新たなベータNMR法を考案した。本研究では、まずその新手法の開発を行い、その新たな電磁気モーメント測定方法を用いて中性子過剰なNe同位体の基底状態の電磁気モーメント測定を目指す。今年度は、中性子過剰なNeの電磁気モーメント測定に必須であるNeのベータNMRに適した単結晶の探索と単結晶中のNe停止位置での電場勾配を測定する実験を理化学研究所のRIPSを用いて行った。実験では比較的安定核に近く、その基底状態での電磁気モーメントが既知である23Neを用いて行った。その結果、ZnO単結晶がNeのベータNMRに適しているという結果が得られた。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、中性子過剰Ne同位体の基底状態の配位やその変形状態を調べるために、29Neおよび31Neの磁気双極子モーメント(核子の軌道運動をよく反映した物理量)および電気四重極子モーメント(原子核の電荷分布など原子核の形を示す)の測定を最終的な目的とする。今年度は、9月に磁気双極子モーメント・電磁気四重極モーメント23Neを用いたNeのベータNMRにおける最適な単結晶の探索、および、Ne停止位置での電場勾配の測定の実験を行った。その結果、非常にクリアな共鳴ピークが得られた。その共鳴ピークの振動数および過去に報告されていた電気四重極モーメントと合わせ、ZnO単結晶中のNe停止位置での電場勾配を決定することができた。以上より、我々の新手法を用いて中性子過剰Ne同位体のモーメント測定を行う準備ができた。
本研究は、スピン整列した不安定核ビームを用いてベータNMR法で用いられている技術によりスピン整列をスピン偏極に変換することで、中性子過剰なNe同位体の基底状態の電磁気モーメントを測定するという新手法を用いる。そのために、①Neに適した単結晶の探索とその結晶中での電場勾配の測定、②スピン整列からスピン偏極に変換する実証実験、以上の2つの実験が必要であった。①に関して、理化学研究所において電磁気モーメントが既知である23Neを用いて実験を行い、ZnOがNeのベータNMR測定に非常に適しているという結果が得られ、ZnO内でのNe停止位置での電場勾配も測定した。次なるステップとして、②の実証実験を行う予定である。実証実験では、21Fと12Bというそれぞれ異なったスピンおよび電磁気モーメントを持つ不安定原子核について行う予定である。それぞれ、22Neと14Nという安定核ビームから1または2つの陽子をはぎ取る反応を用いて、スピン整列した21Fと12Bを生成し行う。生成したスピン整列ビームを実験①で用いた実験セットアップを使用しベータNMR測定を行う。次年度の前半はこの実験準備を行い、後半に実験を実施する。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 8件、 査読あり 8件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
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