研究課題/領域番号 |
16J05920
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
若林 圭作 大阪大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | Adベクター / VA-RNA / shRNA / Dicer / miRNA / CUL4A |
研究実績の概要 |
アデノウイルス (Ad) のゲノムDNAより転写される約160塩基の小分子RNAであるVirus-associated RNA(VA-RNA)は、I型インターフェロンの産生を誘導し自然免疫を活性化することが報告されている。故に、VA-RNAを欠損させたAdベクター(AdΔVRベクター)では、自然免疫応答の減弱と、それに伴う細胞性免疫の減弱および搭載遺伝子の発現延長が期待され、次世代型Adベクターとして有用であると考えられる。一方でこれまで、AdΔVRベクターの効率的な作製法は確立されていない。 本研究では、AdΔVRベクターを効率的に作製すべく、Adベクター作製用のパッケージング細胞であるHEK293細胞の改良に取り組んでいる。これまでに、マイクロRNA(miRNA)の産生において重要な分子であるDicerのノックダウンを誘導可能なHEK293細胞(293-shDicer細胞)を用いることで、AdΔVRベクターのウイルス粒子の産生、および増殖が可能であることを確認した。しかし、従来型Adベクターと同様の密度勾配遠心による精製を試みたところ、精製可能な量のウイルスが得られなかった。 そこで、VA-RNAの生理機能の解析を進め、AdΔVRベクターの増殖効率をさらに底上げするための知見を得ることにも取り組んだ。具体的には、VA-RNAが細胞内で切断されて生じるmiRNA様の分子(mivaRNA)に着目した研究を行った。本研究では、数種類あるmivaRNAアイソフォームのうち、特定のアイソフォームがAdの増殖を促進することを見出し、マイクロアレイ解析などを用いて、その標的遺伝子を同定することを試みた。その結果、mivaRNA標的遺伝子であるCUL4Aをノックダウンすることで、Adの増殖を顕著に促進できることを明らかとし、AdΔVRベクターの作製に応用可能な知見を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
VA-RNAの生理機能の解明に取り組み、VA-RNAが細胞内で切断されて生じるmiRNA様の分子(mivaRNA)がAdの増殖に寄与することを解明した。mivaRNAは、宿主のmiRNAと同様に何らかの標的遺伝子の発現を抑制することで、Adの増殖を促進すると推測されていたものの、実際にAd増殖に寄与するmivaRNAの標的遺伝子は明らかとされていなかった。本研究ではマイクロアレイ解析などを用いて、そのような標的遺伝子としてCUL4Aを同定することに成功しており、今後は本知見を応用することで、さらに研究を展開できると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
293-shDicer細胞を用いてスケールアップしたAdΔVRベクターを精製するために、従来型Adベクターの作製法に則って塩化セシウムを用いた密度勾配遠心を試みたところ、ウイルス粒子によって形成されるバンドが見られなかった。これはおそらく、スケールアップしたAdΔVRベクターであっても、バンドを形成できるだけのウイルス量に到達していなかったためと考えられる。よって今後は、細胞数をさらに増やすなどして、バンドを形成できるだけのウイルス量を得られるよう検討を重ねていく予定である。 一方で、293-shDicer細胞におけるAdΔVRベクターの増殖速度は従来型Adベクターと比較して数倍遅いことから、AdΔVRベクターの増殖効率をさらに底上げする必要があると考えられる。そこで、本研究でAd増殖に寄与するmivaRNAの標的遺伝子として同定したCUL4Aを、HEK293細胞においてDicerと同様にノックダウンすることで、AdΔVRベクターの作製を試みる予定である。
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