研究実績の概要 |
1. チタンペロブスカイトのCaH2還元についての基礎的検討 初年度に引き続き、酸素欠損を導入した酸化物のCaH2還元を検討し、前駆体へのわずかな量の酸素欠損の導入で、水素挿入量が大きく増大することを明らかにした。特に本年度は、時間に対する反応性を検討し、アレニウス式から反応の活性化エネルギーを見積もることで、酸素欠損の導入量と反応性との相関を議論した。これらの結果・考察をまとめた論文は、Inorganic Chemistry誌に掲載された。また、酸窒化物をCaH2で還元することで、水素-酸素アニオン交換反応における窒素種の影響を検討した。本成果はJ. Solid State Chem.誌に掲載された。
2. 新規酸フッ化物AgFeOF2の合成 高圧合成法を用いることで、単純なペロブスカイト型構造を有する新規鉄酸フッ化物AgFe3+OF2の合成に成功した。AgFeOF2は既存のAFeO2F (A = Sr, Pb, Ba)と同様に擬立方晶の対称性を有する一方で、AFe3+O2FとはアニオンサイトのO/F比が異なるため、物性の差異をアニオン組成の観点から考察できる。室温での中性子回折の結果、AgFeOF2はG-typeの反強磁性体であることが確認され、磁気モーメントの温度に対するプロットから、ネール点は480 Kと見積もられた。この値はAFeO2F (A = Sr, Pb, Ba)と比べて大幅に小さく、その差は結合角や結合距離といった結晶構造の比較のみでは説明ができない。これはアニオン組成比(O/F比)の違いが、構造の差異よりも磁気相互作用に大きな影響を与えていることを示唆している。これらの結果・考察を論文にまとめ、Inorganic Chemistry誌に投稿中である。
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