研究課題
近年、遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC)を用いた面内ヘテロ接合の作製が可能になり、接合界面での新しい一次元電子系等の実現が期待されている。しかし従来の研究では、界面における電子状態は未解明なままであり、界面での導電性の向上や閉じ込めポテンシャルの形成は未だ観測されていない。本研究では、キャリアの制御された高品質TMDCヘテロ接合をグラファイト及び絶縁体基板上に形成し、その物性を解明することを目的とした。本年度は、キャリア制御を億滴とした新たな合成装置の確立を実施しつつ、従来の手法で作製したヘテロ構造の界面におけるバンドダイアグラムの評価を行った。その結果、二層WS2とMoS2/WS2積層構造の面内ヘテロ構造(二層ヘテロ構造)では、その界面においてバンドが曲がり、閉じ込めポテンシャルやポテンシャル障壁が形成されていることを初めて見出した。二層ヘテロ構造は、二段階の化学気相成長法により作製した。作製した試料における界面近傍の局所状態密度を、走査トンネル顕微鏡および走査トンネル分光を用いて評価した。トンネル電流の電圧微分が局所状態密度に比例するため、その空間分布を測定することでバンドダイアグラムを得た。dI/dVが急激に上昇する閾値電圧が、正側で伝導帯、負側で価電子帯のバンド端に相当する。正側および負側のdI/dVの閾値電圧が界面でのみアップシフトしていることを確認できる。このアップシフトは、界面に負の固定電荷が存在し、電子のポテンシャルが上昇するためと考えられる。これらの変化に伴い、荷電子帯で10nm程度の閉じ込めポテンシャル、伝導帯で障壁が形成されていることが確認された。本成果は、TMDCヘテロ界面における閉じ込めポテンシャルおよび障壁を初めて実験的に観測した結果であり、界面を利用した微細伝導チャネルの実現に繋がると期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の研究計画とは異なる手法で合成した試料ではあるが、グラファイト上に合成した高品質ヘテロ構造の界面におけるバンドダイアグラムの観測に成功し、その結果について固定電荷を用いたモデルで議論ができており、予想以上の成果が得られていると言える。また、当初の研究計画で作製予定であった新たな合成装置の作製も終了し、TMDCが合成可能であることが確認できており、順調に研究は進展している。
新たに作成した合成装置によってTMDCの合成は実現できているものの、その結晶サイズは1マイクロメートル以下で非常に小さいことが未だ課題となっている。そのため、今後は合成温度・ガスの流速・反応時間などの条件検討を行い、10マイクロメートル程度のグレインサイズを目指す。また、新たな合成装置で合成した試料を用いてデバイスを作製し、電気伝導特性の評価を行う。そして、グラファイトや窒化ホウ素など高品質結晶を合成可能な基板上にヘテロ構造を作製し、その物性を評価していく。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) 図書 (1件)
Appl. Phys. Express
巻: 10 ページ: 045201
10.7567/APEX.10.045201
Sci. Rep.
巻: 6 ページ: 31223
10.1038/srep31223
巻: 9 ページ: 071201
10.7567/APEX.9.071201
Jpn. J. Appl. Phys.
巻: 55 ページ: 06GB01
10.7567/JJAP.55.06GB01