研究実績の概要 |
運動観察に用いる課題において,同じ課題動作を異なる動作速度の映像提示を行う際には,同一速度の動作を再生速度の操作によって速度変化させた場合(再生速度条件)と,撮影する実動作自体の速度を変化させた場合(実動作速度条件)の2種類に分類される.これまで運動観察と観察する映像の速度に関連する経頭蓋磁気刺激(TMS)を用いた研究では,各々の条件では検討されているものの,同じ課題において,再生速度条件と実動作速度条件の両方における比較検討を行っている研究は見受けられない.そこで,両条件間において,運動観察時に活性化されるミラーニューロンシステムに関連した大脳皮質運動野(M1)の興奮性に及ぼす影響についてTMSによる運動誘発電位(MEP)を指標に検討した. 運動観察課題には,示指並びに小指外転反復運動を採用した.実動作速度条件では,この課題を異なる速度(0.5Hz,1Hz,2Hz,3Hz)で実践している際に撮影した映像を用い,再生速度条件では,1Hzの速さで実践している際に撮影した映像の再生速度を変化させ速度を調整した映像を用いた(0.5Hz-fake, 1Hz, 2Hz-fake, 3Hz-fake).これらの課題映像を運動観察させ,再生速度条件と実動作条件の違いがM1の興奮性に与える影響について検討した.その結果,実動作速度条件と再生速度条件における対応した同一速度間においてM1の興奮性に差は認められなかった.さらに各条件において,速度の違いによるM1の興奮性にも差は認められなかった. 以上のことから,今回運動観察課題に用いた単関節運動に関しては,再生速度条件と実動作速度条件との間で,観察する課題の速度もしくは課題映像の再生速度の違いがMNSに関連したM1の興奮性に対して異なる影響を与えないことが示唆された.上記の研究結果は,学術論文として国際誌に掲載された.
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