研究課題/領域番号 |
16J05960
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岡島 陽子 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 女官 / 日本古代史 / 女房 / 昇殿制 / 後宮 / 後宮職員令 |
研究実績の概要 |
一年目である本年は、史料の収集と整理を中心にしつつ後宮職員令に規定された後宮十二司が平安時代初期から変化をみせ女房という新しい女官が台頭していく過程を明らかにすることに努めた。 分析に際して特に注目したのは女房の語の早い使用例である『寛平御遺誡』である。現在複数の翻刻がされているものの、重要な部分に虫損がありその部分の確認のため現存する最古写本である国立歴史民俗博物館蔵田中本の閲覧に赴くなど字句の確認にも努めた。その結果『寛平御遺誡』の内容を分析していく中で女房の原形は更衣・女蔵人であること、また両者の成立事情と職掌の分析から、光孝朝の特殊な後宮状況から起こった更衣の女官化が、宇多朝に女蔵人と結びついて女房という体系的な制度に発展していったことが明らかとなった。 また女官制度を検討する上であまり重視されてこなかった女官の昇殿制についても、女房の本質的な要件と捉え検討を加えた。検討の対象としては食膳への女官の奉仕に注目した。特に陪膳という職掌は天皇に近侍して奉仕するものであり、殿上に昇ることが許される存在である。従って陪膳に従事する者の検討から女官の昇殿制の変化を読み取ることが可能と考えた。そこで注目したのは仁和四年の内宴陪膳に関わる記述である。その記述から従来は平安初期の女蔵人の成立と結びつけて論じられてきた昇殿制は、実際は光孝天皇のころにはいまだ定まっていなかったことが明らかになった。一方で『寛平御遺誡』から寛平年間には女蔵人に対して殿上での日給が行われており、昇殿制の成立を見ることができ、宇多朝において女官の昇殿制が成立したことが分かる。これは男官の昇殿制の成立と時期的に一致する。 以上のように、一年次は女官の平安時代における変化を明らかにした。その結果女房制度の成立の経過とそれに伴う後宮十二司の解体過程をほぼ明らかにしえたものということができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題として「女官の職掌と統属関係の解明」「女官の叙位、任官、給与制度の分析」「女房と女官の関係性の解明」の三項目を設定しており、採用期間三年間のうち一年ごとに一つのテーマを研究していくこととしている。計画書では「女官の職掌と統属関係の解明」を一年次の課題としていたが、研究を進める中で「女房と女官の関係性の解明」の課題の解明を先に行う必要があることが明らかになった。従って一年次は対象とする課題を変更し、「女房と女官の関係性の解明」に務めた。その結果女房の成立が従来言われてきたような後宮十二司の解体に伴って起こったものではなく、光孝・宇多朝の後宮の特殊な状況によるものであり、女房の成立が逆に後宮十二司を中心とした女官制度の解体につながっていったことを明らかにし、一年次に設定した課題を消化できたものと評価する。この結果は残る二つの研究課題の解明につながるものである。なお本内容については構想段階も含め、2箇所の学会で報告を行った。 また一年次の課題として積極的な史料の収集を設定していたが、これについても宮内庁書陵部所蔵東山御文庫本「日中行事」のマイクロフィルムや学習院大学資料館所蔵浜島家文書など次年度以降につながる史料の閲覧・収集を行った。
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今後の研究の推進方策 |
二年次以降は昨年時の研究計画で問題設定した次の二点に関わって研究を行っていくものとする。①女官の職掌と男性官司との統属関係②女官の叙位・任官制度の検討 上記二点について律令導入以前から、律令女官制度が変化する平安時代までという長い時間軸を持って行うものとする。特に一年次は女官と女房を主眼におき女性官人にしぼって論考を進めてきたが、次年度以降は男性官人との比較検討のもとその相違点などを明らかにする。 まず①に関して、従来男女官司の職掌関係については内侍と蔵人への言及がほとんどで両者の関係をもって女官と蔵人の関係に敷衍して論じる傾向が少なからず存在した。しかし、内侍と蔵人は天皇の宣旨を受けたり奏上を取り次いだりと職務内容上抵触する部分が多く、またそのために多くの論考がなされてきたのである。だが蔵人と女官の職掌関係を真に明らかにするには、内侍司との検討だけでは不十分であるはずである。近年天皇を中心とした内裏の日中行事の研究がすすみ、また東山御文庫本「日中行事」が広く世に示されたことで内裏における日々の女官の職掌が明らかになってきた。また『西宮記』『侍中群要』などの史料との比較から時期差を求めることができる。これらの史料を分析し、課題の解明を図る。 課題②については儀式や制度は先例として記録が残ることがあり、史料の範囲を日本古代史史料から中・近世や日本律令のモデルとなった中国の史料にまで広げて収集する。特に課題②を明らかにするために、律令条文の細かな分析を行う。また十六世紀の史料ではあるが十~十二世紀の女官の叙位の先例をよく残した「空勘問草」(京都大学附属図書館蔵)を利用し、検討を加える。また比較検討のため男性官人の叙位・任官史料である「十年労帳」や「外記勘問」などの史料を合わせて検討し、男女官人の制度の相違を明らかにする。
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