研究課題/領域番号 |
16J05993
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西田 純 東京大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 腎細胞癌 / がん微小環境 / 転移 / 好中球 |
研究実績の概要 |
本年度は好中球と腎細胞癌細胞との相互作用に焦点を当て、腎細胞癌細胞側の候補遺伝子を探索した。同時に、好中球依存的な肺転移促進機構ががん進展に伴って新たに露呈する表現型であると仮説を立て、候補遺伝子の転写制御機構の探索を試みた。 [1] 腎細胞癌細胞高悪性株における遺伝子発現の網羅的探索:前年度までに樹立した腎細胞癌細胞高悪性株三株および親株の遺伝子発現を、次世代シーケンサーを用いて網羅的に解析した。親株と高悪性株、ならびに高悪性株間の遺伝子発現比較によって候補遺伝子群を抽出した。得られた遺伝子群には好中球の遊走、活性化への関与が報告されている因子が複数含まれており、前年度確認した表現型を説明しうると考えられた。遺伝子オントロジー解析やGSEA解析を行ったところ、高悪性株においては低酸素応答、解糖系ならびに炎症応答に関連するシグナルの亢進が示唆された。 [2] 候補遺伝子の転写制御機構の探索:原発腫瘍の進展に伴い、候補遺伝子の発現制御がエピジェネティックな機構で行われている可能性を考え、エンハンサーの活性化状態を示すヒストン修飾であるH3K27アセチル化をChIP-seqによりゲノムワイドに探索した。その結果、高悪性株では複数の候補遺伝子のエンハンサー領域でスーパーエンハンサーの形成が確認された。また、転写開始点上流でH3K27アセチル化の上昇が見られた候補遺伝子に関してDNAメチル化状態をバイサルファイトシーケンスによって確認した。その結果、親株では候補遺伝子の転写開始点近傍のCpGサイトがメチル化状態にあるものの、高悪性株ではメチル化が解除されていることが確認された。レポーターアッセイによりこのCpGサイトは、候補遺伝子の転写に寄与することが示唆された。以上より、高悪性株における候補遺伝子群の転写亢進にはクロマチンリモデリングが関与していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度は、当初予定していたRNAシークエンスによるがん細胞側の候補遺伝子の探索のみならず、これらの遺伝子のエピジェネティックな発現制御機構を見出した。これらの結果は、高悪性株において見られる好中球依存的な肺転移には原発腫瘍微小環境での教育が寄与しているという仮説を支持している。申請時にはエピジェネティックな発現制御機構の解明は予想されなかったものであり、当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の研究成果から、好中球依存的な肺転移促進に関わる候補遺伝子群の転写亢進にはクロマチンリモデリングが関与していることが考えられた。平成30年度は、引き続きこれらの遺伝子発現制御機構の探索を遂行するとともに、候補遺伝子を標的とした治療の検討を行う。同時に好中球側の遺伝子発現変動の解析も行う。
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