本年度は昨年度の結果を踏まえて、エピゲノム機構を標的とした治療効果の検討と、腎がん細胞が好中球の動態に及ぼす影響について検討を行った。 [1]高悪性腎がんの転移に対するエピゲノム阻害剤の治療効果の検討 炎症関連遺伝子の発現制御への関与が示唆されたエピゲノム機構の治療標的としての妥当性を検討した。高悪性腎がん細胞を同所移植したマウスに対してエピゲノム阻害剤を投与し、転移抑制効果を検討したところ、自然肺転移の有意な抑制が観察された。詳細な検討により、このエピゲノム阻害剤は高悪性腎がん細胞において見られた好中球を介した肺転移促進機構を抑制することが示唆された。 [2]腎がん細胞が好中球の動態に及ぼす影響の検討 好中球の遊走ならびに生存が高悪性腎がん細胞によって制御される可能性を検討した。高悪性腎がん細胞ならびに親株の培養上清を用意し、好中球の遊走能を評価したところ、前者のみ好中球の遊走を有意に亢進させることが示された。また高悪性腎がん細胞が好中球のアポトーシスを制御している可能性を評価した結果、培養上清によって好中球のアポトーシスは有意に抑制されることが示された。さらなる検討により、遊走、アポトーシスはそれぞれ独立の機構で制御されている可能性が考えられた。一方で高悪性腎がん細胞が好中球の遊走とアポトーシスに与える効果は、エピゲノム阻害剤を投与することでキャンセルされることが確認され、独立した機構を協調的に抑制するエピゲノム阻害剤の有用性が示唆された。この結果は[1]で見られたin vivoにおけるエピゲノム阻害剤の効果を支持していた。
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