研究課題/領域番号 |
16J06012
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
野澤 拓磨 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 分子シミュレーション / 相転移 / 液晶 / キラリティ |
研究実績の概要 |
本研究では,キラリティが誘起するナノ構造液晶の特性を分子レベルで明らかにし,次世代の液晶デバイスの開発の設計指針を示すことを目的としている。今年度は粗視化分子モデルによるモンテカルロシミュレーションが可能な分子シミュレーションソフトウェアの開発を行い,キラル液晶分子の形状や分子間ポテンシャルの異方性が温度相転移の挙動に与える影響について研究を行った。まず,分子形状が相挙動に与える影響について検討した。粗視化分子モデルの軸比を変えた場合のシミュレーションを行い,分子形状が細長くなることによりコレステリック相の安定化する温度領域が広がることを発見した。次に,分子間のポテンシャルの異方性の大きさが相挙動に与える影響について検討した。異方性のパラメータを変えたシミュレーションを行い,分子間ポテンシャルの異方性が弱くなると,コレステリック相-等方相の転移温度が高くなる一方で,TGB相-コレステリック相の転移温度は低くなることを発見した。これらの結果を,第53回日本伝熱シンポジウムや第11回アジア熱物性会議などを含めた国内外の学術会議にて発表した。
研究内容をより発展させるため,2016年の7月にはImperial College LondonのGeorge Jackson教授(イギリス・ロンドン), 9月にはTU BerlinのMartin Schoen教授(ドイツ・ベルリン)を訪問し,研究結果のディスカッションを行った。また,滞在中には現地にて開催されたワークショップにて研究結果を報告した。
現在,上述の研究をより発展させた研究を纏めた学術論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の内容を論文に纏め国際誌に投稿準備中であるが,研究者達とのディスカッションの中で計算条件に改善すべき点を発見した。分子シミュレーションでは,計算時間及び計算リソース上の制約から,バルク状態の計算には3次元の周期境界条件が一般的に用いられる。しかしながら,本研究で取り扱う系のように,中・長距離の周期的構造が見られる系については,周期境界条件が周期的構造形成の阻害,もしくは非現実的な構造の形成を促進する場合がある。この問題を回避するために,近年の研究においては影響を考慮するべき軸方向においては壁面ポテンシャルを導入し,周期境界条件に影響を排除する試みが行われている。さらに,周期的構造が見られる計算系においては,構造形成に十分な分子数が計算セル内に含まれている必要がある。分子数が不足している場合には,本来形成されることが予想される構造が得られない場合がある。
昨年度までに作成したアルゴリズムにおいては,このような周期境界条件及び分子数に関する問題を考慮しておらず,非現実的な計算結果が含まれている恐れがある。そこで,昨年度末に上述の壁面のポテンシャルをソフトウェアに実装し,さらに周期的構造の形成に十分な分子数を計算セルに与えた上で,再度計算を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
前述のように,キラル液晶分子の形状やポテンシャルの異方性が温度相転移の挙動に与える影響を検討するため,計算条件を改善したシミュレーションを現在行っている。得られた計算結果を解析した後,論文に修正を加え,国際誌に投稿する予定である。 次に,分子が持つダイポール強度や位置がキラル液晶相の構造に与える影響について検討する。ダイポール強度を変えた場合の相構造の変化をアキラルな液晶相の場合と比較し,キラル液晶系におけるダイポールの影響について調べる。また,温度・圧力条件を変えた場合の3次元構造の変化についても調べ,ダイポールの強度や位置がキラル液晶相の安定性に与える影響について検討する。得られた結果について,国内及び国際の学術会議で発表する。国外の共同研究先であるImperial College LondonのGeorge Jackson教授及びTU BerlineのMartin Schoen教授と研究結果のディスカッションを行い,詳細な解析と考察を行う。その後学術論文として国際誌に投稿する予定である。
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