研究課題/領域番号 |
16J06084
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
坂井田 瑠衣 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科(藤沢), 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 社会的相互行為 / マルチモダリティ / 身体性 / 状況依存性 / 相互行為分析 |
研究実績の概要 |
医療の身体的やりとりを記述する枠組を構築するために,歯科診療場面を対象とした相互行為分析を実施し,以下3つの知見を得た. (1) 歯科医師と患者のやりとりにおいて,診療を遂行するための身体行動 (会話外行動) が発話などの会話行動に埋め込まれることで,その身体行動が相互行為資源として用いられる過程を観察した.相互行為の状況に依存して動的に対応するための道具立てとして,歯科医師と患者双方の会話行動と会話外行動が複合的に使われることを示した.社会的場面の活動は,基本的に会話外行動を含んでマルチモーダルに組織される活動 (マルチモーダル・アクティビティ) として見るべきであるという視座を提唱した. (2) 「暗黙的協同」(坂井田・諏訪, 2015) と呼ばれる現象について,歯科診療場面に依存した「傍参与的協同」という図式が見られることを示した.歯科診療場面の傍らに参与する歯科衛生士が,会話という観点からは傍参与者でありながらも,実際には歯科診療という制度的な要請に応じて,傍参与者以上の貢献を見せることを明らかにした.複数の活動の同時進行による多層的な参与構造が存在しており,この構造は会話行動のみを観察していては見逃されうるものの,歯科診療場面の相互行為では極めて重要な機能を持つことを示した. (3) 話しかけたい相手の会話行動や会話外行動を観察可能な資源として,「今話しかければ相手の反応を得られる」というタイミングを見極めること,すなわち「会話場」を形成するやりとりを観察した.歯科衛生士が歯科医師に話しかけてよいタイミングを見極めるにあたって,歯科医師の当座の関与を観察し,首尾よく会話場を形成する過程を分析した.医療場面において焦点の定まらない相互行為から焦点の定まった相互行為を開始する際,相手の会話外行動が利用され,相互行為の基盤が形成されることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
医療場面の身体的やりとりを分析するための3つの枠組を提唱することができた.これらの枠組は,医療場面だけでなく様々な社会的場面の身体的相互行為を探究するために有用であると考えられるが,そのためには今後の検討が必要である.さらに,医療場面の身体的やりとりを微視的かつマルチモーダルに記述するためのトランスクリプション手法のプロトタイプを考案することができた.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,(1) 今年度に導出された枠組を用いた医療場面における実証的研究の継続,(2) 他の社会的場面を対象とした当該枠組の汎用性の検討,(3) 医療場面の身体的やりとりを記述するトランスクリプション手法の確立をめざす.
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