電気的中性のアリールアゾピラゾール誘導体において、シス体がトランス体に比べ著しく高い水溶性を有することを見出し、シス体がトランス体に比べて高い双極子モーメントを持つためであることを明らかにした。また、水溶性の差を利用して分子分散溶液 (シス体) と懸濁状態 (トランス体) を可逆的に光制御するとともに、トランス体の結晶が有する疎水性表面への機能性分子の吸着も達成した。このように、水中における光異性化現象に基づき、分子組織状態ならびに機能性界面を制御する新しい方法論を開発した。 次に、光応答分子としてポリオキソメタレート (POM) を取り上げ、有機カチオンとのイオン対形成に伴う自己組織化現象、ならびに得られたナノ構造体の光還元特性について検討した。POM とオリゴエチレンオキシド鎖を有するアンモニウム塩を水中において混合すると、混合条件に依存して厚み 20 nm の巨大ナノシートや、一辺が 100 nm 程度の平行六面体ナノ結晶が得られることを初めて見出した。また、POM シートに光照射すると光還元が起こり、POM 還元種が高い水溶性を有する結果、シートが水に溶解する現象を見出した。更に、共焦点レーザー顕微鏡を用いて、POM シートの位置特異的な光溶解に成功するとともに、Ag(I) イオン水溶液中において光照射されたPOMシート表面における還元型 POM から Ag(I) イオンへの界面電子移動と、その結果生じる銀ナノ粒子の位置選択的な描画に成功した。 このように、新しい結晶性光応答分子システムの開発を目的とし、光異性化及び光還元に連動して界面制御や光ナノ加工をはじめとする有用な仕事を行う分子システム材料の開発に成功した。本研究で得られた知見は、光応答性分子システム材料を開発する上で有用な設計指針を与えるものと考えられる。
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