研究課題/領域番号 |
16J06132
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
濱田 大佐 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 共感覚 / 色字共感覚 / 共感覚色 / 物理色 / 色感度 |
研究実績の概要 |
ごく少数の人において、文字知覚が色の体験を生じさせる色字共感覚と呼ばれる現象が存在する。申請者は、色字共感覚において文字に結びつく特定の色(共感覚色)が通常の物理刺激によって引き起こされる色(物理色)とどのような点で共通しているのかを明らかにするために、28年度に研究計画の研究1「共感覚色と物理色感度の対応」に関する行動実験を行った。先行研究では、共感覚色と物理色がどの程度共通した知覚特性を持つのかという問題は扱うことが出来ていなかった。その理由は、共感覚者一人に対して収集できる共感覚色のデータ数の少なさにある。先行研究では、主に英語圏の共感覚者を対象にしており、アルファベットと数字の合計36文字程度に結びつく共感覚データしか集めることが出来ない。申請者の研究では、日本語話者の共感覚者を対象にして、アルファベットと数字以外に漢字、ひらがな、カタカナに結びつく共感覚色を調査することでこの問題を解決した。一人に多くの共感覚色データを用いて、共感覚者ごとに「共感覚色になりやすい色となりにくい色」を特定することを可能にした。 研究1では、共感覚色になりにくい色となりにくい色で物理色感度が異なるのかを検討した。その結果、まず、共感覚を保持するものは非共感覚者よりも物理色の識別力が高いこと、次に、共感覚者の主観的経験の違いによって共感覚色と物理色感度の関係が異なることを見出した。具体的には共感覚色を視覚的に捉えるプロジェクタータイプの共感覚者は共感覚色になりにくい物理色の感度が高かった。一方、共感覚色を連想的に捉えるアソシエイタータイプの共感覚者は共感覚色になりやすい物理色の感度が高いことが明らかになった。この研究結果は、共感覚色と物理色が色感度という知覚特性において対応関係があることを初めて示したものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究結果の予測とは異なり、共感覚者の主観的経験の違いによって共感覚色と物理色感度の関係が異なることを見出した。この結果は、共感覚色と物理色感度の対応の生起過程が共感覚色を視覚的に捉えるプロジェクターと共感覚色を連想的に捉えるアソシエイターで異なることを示す重要な知見である。研究1の成果、及び、それ以前の研究成果である共感覚色の色空間上の分布パターンに関する研究、共感覚色と文字の関係に関する個人差研究をまとめて学位論文を提出し、博士学位を取得した。したがって、研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
28年度では、共感覚色と物理色の共通性を色感度という知覚特性からアプローチしたが、29年度では、神経基盤の共通性を検討する予定である。先行研究では、共感覚色に関与する領域はいくつか示されているが、物理色との対応は不明確である。申請者は、デコーディングの手法を応用して共感覚色と物理色の脳内表象を比較することでこの問題を解決する。共感覚色と物理色はそれぞれ異なる入力情報から色の体験が生じるので、両者に共通する脳領域・活動は、色知覚の成立において重要な領域・活動であることを示唆すると考えられる。
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