研究課題
すでに数千個にのぼる系外惑星が発見され,これまでに惑星の軌道・質量・半径などが多岐にわたることが明らかになった.今後はさらに惑星の表層環境の特徴づけが進むと予想される.観測で多様性が明らかになったとき,そのもつ意味,つまり多様性の起源の解明には惑星進化の理解が不可欠である.本研究では,系外惑星にも適用可能な,より一般化した大気-マグマオーシャンの共進化モデルを構築し,大気多様性の起源を明らかにすることを目的としている.今年度は非灰色大気での放射対流平衡モデルの開発に取り組んだ.このモデルはマグマオーシャンの熱史に対する大気の保温効果,また系外惑星での観測可能性の議論に必須なモデルである.地表の岩石が溶融している非常に高温な大気を取り扱うため,より高い励起準位を含む吸収線データベース(HITEMP)を使用し,また,惑星放射を赤外から可視までの広い波長領域で散乱も含んで高速に計算できるようにした.コードは様々な恒星スペクトルや惑星質量を取り扱えるよう設計し開発した.また,進化計算を高速に行うために,ニュートン法を用いた放射対流平衡構造の計算モジュールを開発した.非灰色大気での計算を行った結果,非常に低温の放射層(成層圏・中間圏)が形成され,放射層内でも水蒸気の凝縮が生じることがわかった.これは水蒸気の吸収係数の強い波長依存性によって生じるが,多くの先行研究では成層圏温度を一定と仮定しており,これまで示されていなかった.低温の放射層形成による惑星放射への影響は少ない.一方で,低い成層圏温度,特に凝結による水蒸気量の減少は,惑星が水を失う速度を著しく低下させることがわかった.系外惑星を含む惑星大気とマグマオーシャンの進化について,海外の研究者とともにSpace Science Reviewへ論文を投稿・受理された.また,4つの学会発表(うち招待講演1つ)を行った.
2: おおむね順調に進展している
放射対流平衡計算のための反復計算に耐えうる高速な放射フラックスの計算モジュールを開発した.また,ニュートン法を用いた大気構造計算モジュールの開発により,惑星進化に要する計算する時間も短縮できた.放射層での水蒸気凝縮に伴う数値振動という問題に直面したが,計算ステップ・透過関数の更新等に工夫を行うことで,これを解決できた.
現在はより高温(1,500K以上)の場合の放射対流平衡構造を行っている.高温になり近赤外・可視での惑星放射が大きくなると,計算の性質上温度構造が振動し収束しなくなるという問題に取り組んでいる.また,背景大気に水素を多く含む場合,組成勾配によって対流発生条件が変わるという新たな論文が発表され,共著者の1人と議論を行った.今後はこの論文で指摘された効果が本研究に与える影響を評価し,結論に影響する場合には,効果を直接モデルへ組み込むことを検討する.
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Space Science Review
巻: 205 ページ: 153-211
10.1007/s11214-016-0280-1