研究課題/領域番号 |
16J06151
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
濱田 雄太 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 特別研究員(SPD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | バリオン数生成 / ニュートリノ振動 / ブラックホール |
研究実績の概要 |
2015年末にLHC実験においてアノマリーが報告された。終状態に2つの光子を観測するdiphoton事象が標準模型の期待値よりも3σ近く大きいというもので、これが本当ならば標準模型を超えた新粒子の存在を意味する。私は、diphoton事象を説明し、かつ重力のスケールであるプランクスケールまで有効である模型を網羅的に構成した。 さらに、プランクスケールまで理論の摂動性や安定性が保たれるかどうかを調べた。その結果、 プランクスケールまで有効である模型はそれほど多くないことが判明した。その後、アノマリーは統計的ゆらぎであったと撤回されたが、本研究の結果は将来実験でTeVスケール付近に新粒子が発見された場合に同様に適用できる。 バリオン数生成のシナリオについていくつかの可能性を提案した。インフレーション終了後の宇宙の再加熱プロセス中におけるインフラトン崩壊でのバリオン数生成を考えた。レプトン数非対称性はその後のスファレロン過程によってバリオン数非対称性へと変換される。実際に広いパラメーター領域で現在のバリオン数を説明できることを計算した。 また、CPを破るニュートリノ振動が宇宙初期に起きて, バリオン数非対称性が生じる可能性を考察した。ニュートリノセクターに存在するであろうCP位相によってニュートリノフレーバーに非対称性が生じる。このシナリオも現在のバリオン数を説明可能で、現在行われているニュートリノ振動実験と密接に関係する点が面白い。 さらに、ブラックホールの蒸発過程においてバリオン数が生成されることを指摘した。時間依存する重力場背景の元では化学ポテンシャル項が一般に生じ、これによってホーキング輻射から出てくる粒子・反粒子の個数に違いが出る。カレント・重力曲率結合項の大きさとブラックホール質量の関数としてバリオン数を計算し、可能なパラメーター領域を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は最初の半年を受け入れ先機関である高エネルギー加速器研究機構で研究し、後の半年はアメリカにあるウィスコンシン州マディソン校に研究拠点を移した。それぞれの研究機関での研究者と共同研究し、計12本の論文を発表することができた。そのため、研究計画は当初の計画以上に進展していると考える。 より具体的には、高エネルギー加速器研究機構では宇宙のバリオン数生成を研究した。現在確立されている素粒子標準模型では説明できない現象として、 現在の宇宙のバリオン数と反バリオン数の非対称性がある。これを説明することは標準模型の拡張理論を探る大きな手がかりであり、どのような可能性が存在するか調べることは重要な課題である。 ウィスコンシン州マディソン校では重力波に関するメモリー効果を宇宙論的な背景時空で調べた。この効果は将来の重力波観測実験で実際に見える可能性があり、重要である。 その他にも、京都大学、大阪大学の研究者とともにヒッグスインフレーションについて研究した。ヒッグスインフレーションは近年のプランク衛星の宇宙背景輻射の観測を受けて、最も有力とされるインフレーションシナリオの一つで、コライダー実験と相補的にその成否を議論できるところが面白い。 さらにハイデルベルグの研究者とともに弦理論以外の量子重力理論の可能性、漸近的安全理論を研究した。漸近的安全理論は非可換ゲージ理論がGaussian固定点を用いて非摂動的に定義可能であるものを重力に拡張した理論で、紫外固定点が実際に存在するか否を調べることが重要な課題である。私は、高階微分を入れた重力理論で実際に紫外固定点が存在することを示した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は引き続きプランクスケールの物理と電弱スケールの物理との関わりの理解を深める研究を推進していきたいと考えている。特に、電弱スケールの物理から高エネルギーに対する知見を得ることと、量子重力理論の赤外構造に関してよりよく知ることを目標にしたい。 重力子のソフト散乱に関する定理、時空の漸近的対称性、重力波に関するメモリー効果が関連していることが平坦時空では知られている。これに対して、今の宇宙論的な状況であるドジッター時空への拡張を引き続き目指す。さらに、弦理論からこの関係に対する知見を与えたい。この理解が深まれば量子重力の低エネルギーの振る舞いで何がユニバーサルであり、何が模型依存性を持つかがわかるようになり、さらにどんな物理的過程でこの効果が起こるのかを理解できる。 近年、超弦理論の低エネルギー有効理論として、どのようなクラスの模型が構築可能で、どのようなものが構築不可能であるか同定する研究が盛んである(swampland問題)。私は、現実世界を記述する素粒子標準模型の周りで実現するランドスケープ構造を詳しく解析することで、このswampland問題に対する知見を与えたいと計画している。 また、漸近的安全理論を引き続き研究していきたい。これまでの研究によって漸近的安全理論によって低エネルギー理論の古典的スケール対称性が導かれることを示唆する結果が得られており、これを精密化して発表したい。
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