研究課題/領域番号 |
16J06159
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
中川 陽子 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | Ru(II)-Pheox / Si-H insertion reaction / Gaussian / Ginkgolide B / carbene |
研究実績の概要 |
医薬品などの複雑な多官能基性生理活性物質の合成経路開発のためには,触媒開発に付随して高度な立体制御反応の開発と基質適応範囲の拡大等の基礎研究が必須である。特に新規医薬品としてケイ素を含む有機化合物は,パーキンソン病の治療薬として注目されているα-silylamineをはじめとする様々な特異な生理活性を示すことが明らかになっており,その効率的な合成経路の開発が急務である。そこで,Ru(II)-Pheox触媒を用いて,新規不斉Si-H挿入反応の検討を行った。その結果,高収率・高立体選択的に目的の有機シラン類が得られた(up to 99% yield, 99% ee)。この研究成果については2017年3月にイギリス化学会誌Chemical Communicationsに報告した。 また,平成27年度のπ結合へのカルベンの不斉反応によるシクロプロパン化についての成果を基盤に,不斉分子内シクロプロパン化反応における遷移状態構造の推定とそのエネルギー準位を含む詳細な反応機構の解明を行った。その結果,Ru(II)-Pheox触媒による不斉シクロプロパン化反応では,分子内のπ電子相互作用によって精密な不斉制御が行われていることが明らかになった。 さらに,今年度は,主要な研究テーマであるGinkgolide Bの全合成に着手した。これまで当研究室で行ってきたRu(II)-Pheox触媒によるカルベン移動反応についての基礎研究を生かし,全合成の逆合成解析に基づく合成アルゴリズムを効率的・高立体選択的に合成するための準備反応を検討した。準備反応として,単純なカルボン酸類を用いて原料合成を開始し,得られたジアゾエステル類を用いてRu(II)-Pheox触媒による不斉分子内シクロプロパン化反応を行ったところ,64%収率で目的のシクロプロパン-ラクトン-シクロペンタンの縮環構造が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度は,当初の計画通りGinkgolide Bの全合成の逆合成解析と準備反応に着手した。量子化学計算を用いた計算化学的アプローチによる不斉シクロプロパン化反応の反応機構解析では,Ru(II)-Pheox触媒の特異な不斉誘起機構と反応機構の詳細を明らかにすることに成功し,現在論文を執筆中である。また,DC応募時の計画には入っていない研究内容ではあるが,Ru(II)-Pheox触媒によって,様々な基質のSi-H結合へのカルベン移動反応が高収率・高立体選択的に反応が進行することを見出した。このSi-H挿入反応についてはイギリス化学会誌Chemical Communicationに投稿し,掲載された。 平成28年度の研究成果は,251st ACS National Meeting & Exposition(San Diego, USA),252nd ACS National Meeting & Exposition(Philadelphia,USA),第95回日本化学会春季年会(横浜)など,国内外の学会において報告を行った。またこれらの成果は,日本化学会東海支部長賞および第6回CSJ化学フェスタ優秀ポスター発表賞等の受賞にも表れている。さらに公益財団法人神野教育財団海外研修助成および日東学術振興財団海外派遣助成費用等に採択され,国際会議での発表,外部資金の獲得という面においても積極的に活動をしたといえる。以上から当初の計画以上の研究の進展があったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後,D2,D3の2年間は,Ginkgolide Bの全合成法開発とRu(II)-Pheox触媒による基礎反応開発を中心に進める。 具体的には,平成29年度はRu(II)-Pheox触媒を用いた不斉C-H挿入反応の開発を行い,得られた不斉C-H挿入反応に関する成果について論文執筆を進めるとともに,Ginkgolide Bの予備反応の検討を行う。また,DCG-IVとDysibetaine CPaの大量合成法の確立のため,温度条件や触媒量などの反応条件の最適化を行う。同時に,昨年度行った量子化学計算による反応機構解析についての研究成果をまとめ論文誌(Organometallics)に投稿するとともに,新たにσ結合系へのカルベンの挿入反応についても解析を行い,Ru(II)-Pheox触媒の反応性・不斉誘起機構の全容解明に取り組む。アメリカ化学会主催の国際会議で複数回の研究発表や米国トップ大学への研究室訪問、議論等をすでに行っており、平成29年度後期に予定していたシカゴ大学への留学については取りやめる。ただしシカゴ大学V. H.Rawal教授には引き続きアドバイザーとして研究に参加していただく。 平成30年度は,主にカルベンのC-H挿入反応やシクロプロパン化反応を駆使してGinkgolide Bの全合成に取り組む。成果の発信は,随時、学会発表や論文発表等にて行う。同時に,Ru(II)-Pheox触媒によるこれまでの触媒的不斉反応の成果をまとめ博士論文の作成を進める。
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