前年度は、酸化物ヘテロ構造において電場制御と検出を行い、スピン軌道相互作用の大きな非磁性体SrIrO3と強磁性金属SrRuO3からなる構造で、大きな電場制御を見出した。しかし、微視的機構の詳細は完全に理解されていない。本年度は、本ヘテロ構造の材料選択における特徴を明らかにするため、まず近接効果を調べた。次に強磁性体を変更したヘテロ構造について調べた。 SrRuO3とSrIrO3からなる超格子を作製し、SPring8 BL39XUにおいてIrの価数、磁気的性質を調べた。界面で電荷移動がほぼなく、IrにSrRuO3と逆向きに小さな磁気モーメントが誘起されることが分かった。この磁気モーメントはIr酸化物に特有な大きい軌道磁気モーメントの寄与を有しており、強いスピン軌道相互作用の影響を受けていることを明らかにした。これは、これまで研究されてきた金属材料における実験とは異なる傾向であり、物質系をまたいだヘテロ構造における磁気特性の理解に新たな視点をもたらしうる。 電場制御の起源として界面の電位勾配に加え、SrIrO3層のフェルミ準位変化が考えられる。後者の場合、より電荷移動の大きな組合せを設計すれば、大きな界面由来の相互作用が期待できる。そのような組合せとして強磁性体にCo酸化物(La0.5Sr0.5CoO3)を選択し、磁気輸送特性を測定しが、トポロジカルホール効果は検出されず、SrRuO3-SrIrO3の場合よりも界面の効果が小さいことを見出した。放射光実験を行い、本ヘテロ界面では大きな電荷移動が起きていることを実験的にも確認した。スピン構造制御には電荷移動よりも、界面の電位勾配が重要であり、スピン構造形成にはIrの価数も重要である可能性を明らかにした。 大きな電荷移動が期待される強磁性体としてSrCoO3も検討し、興味深い磁気輸送特性が得られたが、ヘテロ構造評価には至らなかった。
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