研究課題/領域番号 |
16J06207
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
服部 祐季 名古屋大学, 医学系研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | ミクログリア / 胎生期 / 脳発生 / 分布変化 / ニューロン個性化 |
研究実績の概要 |
マウス胎生期の大脳皮質原基において、ミクログリアは時期依存的な分布変化を呈する。本年度は、その分布変化をきたすメカニズムと生理学的意義を明らかにするため機能解析を行った。 昨年度までに、ミクログリアの時期特異的な移動には特定のケモカインシグナルが関与していることを示唆する結果を得ていたので、それを詳細に調べるため、ケモカインレセプターのノックアウトマウスでのミクログリアのライブイメージングおよび組織学的解析を行った。ノックアウトマウスではミクログリアの移動が阻害され、分布パターンにも異常が生じたことから、ミクログリアの適切な配置にはこのケモカインシグナルが主に関わっていること明らかにした。 さらに、ミクログリアが神経系前駆細胞の産生・運命選択に関与しているかに関しても、ミクログリアと神経前駆細胞の共培養やクロドロン酸リポソームの脳室投与によるミクログリア除去の実験等により、ミクログリアがPax6陽性の未分化な神経幹細胞の数を減らし、Tbr2陽性の中間前駆細胞を増加させ、神経前駆細胞の分化を促進する可能性が示唆された。 一方、ミクログリアが胎生中期から後期にかけて皮質板から一時的に抜け出すことの意義について検証するため、in vitroで誘導した成熟ニューロンとミクログリアの共培養や、in vivoでミクログリアを強制的に皮質板に配置させることを試みた。これまでに、ミクログリアの存在がニューロンの個性化賦与に影響を与える可能性を見出しており、ミクログリアの皮質版からの一時的な抜け出しは正常な脳構築に重要であることがわかってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度初めにケモカインレセプターのノックアウトマウスの解析準備が整ったため、このマウスを用いた組織学的解析、および、ミクログリア可視化マウスであるCX3CR1-GFPマウスとの掛け合わせを行いライブイメージングを行った。これらの解析から、ミクログリアの分布・移動にはこのケモカインシグナルが重要であることを実証した。 また、ミクログリアの挙動と機能発揮の関連性についても、ミクログリアの移動経路や守備範囲といった新しい観点からの解析を行い、ミクログリアが集積する脳室帯や脳室下帯において、ミクログリアがPax6陽性の神経幹細胞を減らしTbr2陽性の中間前駆細胞の分化を促進することを明らかにした。 これに加えて、本研究課題を進めていくなかで新たに問いとして浮上した「ミクログリアが皮質板を一時的に抜け出す意義」に関して、これを検証すべく種々の実験手法・手段を確立・習熟した。まずin vitroの実験系としては、Gadd45g-d4Venusマウスを用いて、セルソーターにて脳室下帯や中間帯に存在する中間前駆細胞や幼若なニューロンを回収し、数日培養し足並みの揃った成熟ニューロンを得、ミクログリアと共培養する系を整えた。in vivoの実験系としては、ミクログリアの皮質版への移植や引き寄せの方法を確立した。これらの実験が奏功し、ミクログリアがニューロン個性化賦与に影響を与えることを示唆する結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、まず「ミクログリアが胎生中期から後期にかけて皮質板を抜け出す」ことの意義に関して、これまで得られた結果を検証すべく綿密に解析を続けていく。出生後の脳ではミクログリアが再び皮質板に分布するようになることから、対象とする解析時期を広げながら今後も調査する。 さらに、本研究課題の3年目の計画として予定していた「母体炎症との関連」について調べるため、感染症モデルマウスや自己免疫疾患モデルマウスの準備を進めながら解析基盤を整えていく。これまでに正常な脳発生過程で捉えてきたミクログリアの分布・移動・挙動および機能について着目し、母体の過剰な炎症によってこれらに乱れ・異常が生じないかを調べる。 もし異常を認めた場合には、それを引き起こした原因因子を探りながら、脳発生への影響を解析する。
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