高病原性の臨床分離結核菌株に存在するとされる糖脂質phenolic glycolipid (PGL) は、感染局所に菌の増殖に許容的なマクロファージを集積させることで宿主による排除を逃れ、病原因子として機能しうることが報告されている。この許容的マクロファージの集積には、感染局所におけるケモカインMCP-1の産生が重要であると考えられているが、その機能を担うPGL認識受容体は未だ不明である。 PGLが樹状細胞やマクロファージにどのような応答を誘導するかを明らかにするため、これらの細胞をPGLで刺激し、培養上清中に産生されるサイトカイン・ケモカインを解析したところ、炎症性サイトカインであるTNFやIL-6の産生は認められず、ケモカインMCP-1の産生が認められた。さらに我々は、このPGL刺激に伴うMCP-1産生が、ITAM(immunoreceptor tyrosine-based activating motif)を有するアダプター分子Dap12に依存することも見出した。このことから、Dap12共役型受容体がPGL受容体である可能性が示唆されたため、Dap12共役型受容体のイムノグロブリン融合タンパク質を用いて、PGL受容体のスクリーニングを行い、一つの候補としてPGLR(仮)を同定した。PGLRは、Dap12を介して細胞内にシグナルを伝達すると考えられていることから、NFκBプロモーター下に分泌型アルカリフォスファターゼが組み込まれたレポーター細胞に、PGLRとDap12を発現させ、この細胞をPGLで刺激したところ、NFκBの活性化が認められた。また、PGLR欠損マクロファージでは、PGL刺激に伴うMCP-1産生がほぼ完全に消失した。これらの結果から、PGLRがPGLの機能的な受容体であり、MCP-1の産生を介して、結核菌の免疫回避に寄与している可能性が考えられた。
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